合計特殊出生率は、地域によって大きく異なることをご存じでしょうか。県単位で見ると、九州をはじめとする西日本で高く、東日本が低いという西高東低の傾向にあります。また、都市部で低く、地方部で高い傾向にあることから、若い女性の地域定着や地方への移住を促す国の政策の根拠となっています。
逆に、独身女性が大都市に集中する現状を踏まえ、都市部で出生率が低いのは当たり前という意見もあります。筆者も、都道府県別の出生率に注目すること自体には、あまり意味がないという立場です。
その理由は、都道府県の合計特殊出生率に、若い女性の有配偶率が強く影響しているとみられるためです。出生率の高い県の特徴として、結婚が早く、若い時期に一定数の子どもをもうける女性が多い傾向があります。そして、若い時期に結婚する女性の多寡は、女性の4年制大学への進学率に依存します。すなわち、4年制大学に進学すれば、男女とも社会に出るタイミングが遅くなり、社会人としての足場を築く中で必然的に結婚は後ろ倒しとなります。女性の大学進学率が高い地域ほど、結婚が遅い傾向にあり、出生率も下がるという、きわめて当たり前の構図が見えてきます。
もちろん、合計特殊出生率の決定には他の要因もかかわっており、また結婚している女性の出生率(有配偶出生率)にも地域性があるため一概には言い切れませんが、都道府県の合計特殊出生率の差異のおおむね5割程度は女性の大学進学率で説明できます。
したがって、現在出生率が高い県でも、女性の大学進学率の上昇とともに、今後出生率は低下する可能性もあります。また、地域特性としての出生率の高さは、必ずしも少子化対策の成功を意味しているわけではありません。単に、女性の大学進学率が低いゆえの可能性もあるため、出生率は女性活躍の状況と合わせて評価することが必要です。
全国平均で見れば、近年、女性の大学進学率は、男性とほぼ同水準まで高まってきており、今後も上昇する可能性が高いため、出生率には絶えず下押し圧力がかかっていると考えるべきです。では、出生率を改善するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。
まずは、有配偶出生率を引き上げることです。結婚している人が子どもを産み育てやすいように、子育てや不妊治療などに対する支援を手厚くすることはもとより、若い世代の経済・雇用環境を改善し、若い夫婦が子どもを持つことに前向きになれる環境を作ることが必要です。
加えて、大学進学率の上昇にかかわらず、希望する人が、早期に結婚に向けた行動に踏み出せる環境づくりも必要ではないでしょうか。「結婚すべき」という価値観を押し付けるべきではありませんが、近ごろは経済的な不安から、結婚に前向きになれない人も少なくありません。また、仕事や自己研鑽(けんさん)に忙しく、結婚に向けた行動に時間が取れないという人もいるでしょう。賃金上昇や雇用の安定化はもとより、希望する人が早い時期から婚活を始められるよう、企業による「働かせ方」の見直しも重要なのではないでしょうか。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.32からの転載】