約700の島が点在する豊かな自然と、歴史に根ざした文化、農林水産業や製鉄、繊維、製紙、造船をはじめとする各種産業を抱える瀬戸内地域の潜在力を生かして新たな経済の形成を目的とする「瀬戸内から、新たなゆたかさを実現するフォーラム(略称・瀬戸内フォーラム)」の設立総会が6月12日、東京・永田町の参院議員会館で開かれた。沿岸地域の国会議員らが発起人となり、兵庫、岡山、広島、山口、大分、愛媛、香川の7県や域内の大学、企業などで構成。事務局となる笹川平和財団の角南篤理事長は「地域に横串を通すプロジェクトで未来を考えていきたい」と趣旨を説明。あいさつに駆けつけた山口県選出の林芳正官房長官は「今は『日本の地中海』と言われているが、世界的に『瀬戸内』で通じるようになってほしい」と話した。
▽ブルーエコノミー
「何かをすれば世界に冠たる瀬戸内になる」。岡山県倉敷市児島の出身で「瀬戸内は日本のエーゲ海」などといわれて育った角南理事長は、かつて実際にエーゲ海を訪れた際に「全然、違うじゃないか」と驚いた。高級リゾートホテルやレジャー施設群に圧倒された。しかし、故郷と同じように美しい夕日を見つめていると、逆に瀬戸内の持つポテンシャルに気づいた。
同理事長は「海業」という言葉を提唱する。これまで、それぞれ別々に捉えられていた漁業や水産加工業、旅館・ホテル業、飲食業、レジャー業から教育・研究までを一体として持続可能な海洋経済(ブルーエコノミー)としてくくり直そうとの考えだ。瀬戸内海は日本最大の閉鎖性海域で、海洋プラスチック問題や藻場減少、磯焼けといった課題に対する取り組みがやりやすく成果も早く出るという利点がある。こうした特徴を生かして瀬戸内を「奇麗な海」から「豊かな海」へと転換することはもちろん、海洋環境問題解決で世界をリードする地域とすることができると力を込めた。
オンライン参加した瀬戸内デザイン会議の発起人、原研哉さんは「海島」というアイデアを披露。海に大きな浮遊物を浮かべ、その上にホテルなどを建設。内海で波が静かな瀬戸内海を窓の外に見ながら、海の幸に舌鼓を打つといったこの上なくぜいたくな空間を演出するもので、「フォーラムのシンボル的存在に」と訴えた。フォーラム代表世話人の広島県選出、小林史明衆院議員は「浮遊物の上に建造物をつくることは法律的に可能だ。しかし、それに動力をつけるとか、接岸はどうするのかといったところで規制緩和や法整備、複数自治体の連携が必要になる。そこにフォーラムの必要制がある」と説明した。
▽新しい景色
開催地が複数の自治体にまたがる観光・スポーツイベント、音楽祭、ビジネスフォーラムなどは既に多くある。「倉敷の男性に嫁いだので私も一員」と自己紹介した自見英子内閣府特命担当相は「『セトイチ』という瀬戸内を1周するサイクルロードに注目している」と指摘。オンラインで参加した伊原木隆太・岡山、湯崎英彦・広島、佐藤樹一郎・大分の各県知事も「この地域はポテンシャルに満ちている」と口をそろえた。今後は、個々のイベント単位で関係自治体が結びついているところから、さらに一歩進めるか。角南理事長は「地域に横串を差すプロジェクトを打ち出し、インフラをつなげ、交通網をつなげていく。そういう話になると投資を呼び込むチャンスも膨らむ」と将来を見据えた。
小林代表世話人は「挙手をしてアイデアを出してもらい、賛同を得られれば、それがプロジェクト」と説明。「広域性」という条件さえ満たしていれば、産・官・学の別、大企業・スタートアップといった組織の大小などは問わずに提案を募る。寄せられたアイデアはフォーラム運営委員会で検討、「OK」となればフォーラムとして実行に移していくという建てつけだ。小林氏は「フォーラムは自然豊かな瀬戸内海を舞台に『新しい資本主義』を具現化する試みだ。世界で注目される社会・環境問題の解決に資する事業に向けられるESG資金を中心とした投資を呼び込むことで新しい経済の景色が見えてくる」と期待を込めた。