「自然共生サイト」認定の椀子ヴィンヤードは、ネイチャーポジティブのお手本  シャトー・メルシャンのSDGsツアーで体感しよう!

 最も興味深かったのは、生物多様性の話だ。椀子ワイナリーのブドウ畑「椀子ヴィンヤード」は、荒れ果てた桑畑だった遊休荒廃地を垣根式・草生栽培のブドウ畑に転換し、2003年に開園した。

 2014年から農研機構との共同研究で生態系調査を実施したところ、 なんと絶滅危惧種を含む昆虫168種や植物289種が見つかっているという。素晴らしい生物の多様性が実現した理由は、春から秋にかけて約3週間に1度行う草刈りにある。

 これで環境が常にリセットされ、強い植物だけがはびこることがないのだ。日本から失われつつある草原環境が創出され、さまざまな在来の草が増えると、それを食べる在来の昆虫もやってくる。それを餌にする鳥たちも飛んでくる。驚くのは、絶滅したと思われていた植物や昆虫が戻ってきて、さらにその種類が増えそうなことだ。例えばクララという草は、本州では隣の東御市でしか生息していない絶滅危惧種のオオルリシジミという蝶の幼虫が唯一食べることのできる草。この蝶はまだ畑では発見されていないが、餌となる草があれば希望は持てるわけだ。ちなみに、椀子ワイナリーではNPOや地元の小学生の協力でクララを増やす活動も行っている。

豊かな生物多様性が認められた、椀子ヴィンヤードの垣根式・草生栽培のブドウ畑
豊かな生物多様性が認められた、椀子ヴィンヤードの垣根式・草生栽培のブドウ畑
椀子ヴィンヤードを歩くと、さまざまな草花や昆虫に出合う
椀子ヴィンヤードを歩くと、さまざまな草花や昆虫に出合う
一本木公園に自生していたクララ
一本木公園に自生していたクララ
時間にして約1時間、歩数にして約3,000歩のツアー

 座学の後はいよいよブドウ畑や醸造エリアの見学だ。まず向かったのは、ブドウの残渣を集めた堆肥場である。そこにたどり着くまでには、メルロー、カベルネ・フラン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど、品種ごとに区画されたブドウ畑を通り抜けていく。歩きながら時折、参加者から質問が飛び出し、田村ワイナリー長が足を止めて丁寧に説明を加えていく。そして途中、いくつかの品種のブドウをつまませてくれた。ワイン用ブドウを味わう体験ができたのはこの時だ。

 堆肥場に到着するとそこには三つの山が。シートを被っている山は微生物を混ぜて発酵中の今年の圧搾残渣。残りが昨年と一昨年の山である。今年のものはブドウの甘い匂いと生ゴミが混ざったような臭いがするが、一昨年のものはそれが抜けてさほどにおわない。ブドウ100%のうち、15~20%が残渣になり、年間15トン~20トンにもなる。それでも水分が抜けてどんどん縮んでいくので、1年分では畑全部にまく量にはならないのだそうだ。今年は一昨年の分を肥料としてまくのだという。