
自治体が出店する都内のアンテナショップは、新型コロナウイルスの感染拡大以来、大幅な減収となり、東京五輪・パラリンピックによるインバウンド(訪日外国人客)の地方への誘客も期待できなくなった。一方で、各ショップでは、地元と結んだオンラインイベントを開催するなど工夫を凝らし、地域への送客口として新たな取り組みを始めている。
地方を体感
東京にいながら、特産品の購入、地元料理の飲食、イベントも楽しめる自治体アンテナショップは首都圏住民にすっかり定着している。
地域活性化センターの調査では、2020年4月の東京都内ショップ数は、62店舗だった。
コロナ禍で、地方への移動を控える都市住民の中には「アンテナショップで、旅した気分になれる」「帰省ができないけどふるさとの品々をそろえられる」などの需要もあり、一定数の来店者がある。
昨年暮れ、ランチで訪れた東京・日本橋にある「ここ滋賀」のレストラン「滋乃味(じのみ)」は、感染対策で人数制限をしていたが満席で、その人気ぶりがうかがえた。
また、エリア内に約20店舗のアンテナショップが集積する銀座・有楽町の各店舗も特産品を買い求める来店者の姿が途絶えることがない。地酒やおつまみ、季節のフルーツや菓子類を買い、自宅で味わいながらご当地を思い出すのは楽しいひと時である。
最近は、オンラインでの酒蔵・ワイン醸造所ツアーやイベントも人気だ。事前にアンテナショップやネットで入手した酒類を、家で味わいながら、醸造家や杜氏(とうじ)の話を聞くことができる。
コロナによって、私たちは多くの大切なものを失った。しかし、新しいテクノロジーは、リアルとバーチャルを融合し、いつでも、どこでも、誰とでもつながることの喜びを教えてくれた。
ファンミーティング
2020年以降、コロナの収束が見えない中でも、自治体アンテナショップの新設、移転が相次いでいる。
昨年、日比谷には2店舗が誕生した。島根県の「日比谷しまね館」と青森県八戸広域の自治体が共同で出店する「八戸都市圏交流プラザ8base(エイトベース)」である。両店舗とも、コロナの影響でオープンが数カ月遅れたものの、徐々に活動範囲を広げている。
日比谷しまね館は、日本橋から移転し、ショッピングモール「日比谷シャンテ」で装いを新たにした。店内には、物販に加えて飲食スペース「ご縁カフェ」が併設されている。地元の特産品を使ったメニュー「のどぐろ丼」「赤天カレー」、地酒の飲み比べセットなどを味わうことができる。
物産コーナーには、東京では入手が難しいといわれる、奥出雲葡萄(ぶどう)園のワインや茶の湯文化を継承する和菓子類もあり魅力的だ。また、隣接するタリーズコーヒーと空間デザインやプロモーションで連携し、しゃれた雰囲気を演出している。
一方、8baseはJRの高架下を再開発した新商業施設「日比谷オクロジ」にある。
店舗は、青森県八戸市内にある高級割烹(かっぽう)「金剛」が運営しており、地元の良さを残しつつも洗練されたレベルが高い料理が手頃な価格で味わえる。
また、商品も品ぞろいが豊富でテンションがあがる。イカやホヤの塩辛、瓶詰めウニ、締めさばなどの海産物、ご当地グルメの「いちご煮」や「せんべい汁」、八戸広域の8市町村の地酒などが販売されている。
8baseでは、飲食や物販のほか交流事業にも力を入れており、八戸広域をテーマにファンミーティングを開催している。
歯がゆい
今年に入っても出店は続き、5月に大分県「坐来(ざらい)大分」が数寄屋橋に移転、7月には県境を越えた自治体が連携し「気仙沼、久慈、福島情報ステーション おかえり館」が有楽町に開店した。
6月に羽田空港店を新設した「北海道どさんこプラザ」は、今秋、大阪の商業施設「あべのハルカス」にも出店予定だ。
圧倒的な地域ブランドの強みを持つ北海道ならではの挑戦だ。8月には奈良県、2022年度には福井県も移転の予定だ。
7月12日、東京に発出されていた4回目の緊急事態宣言は、8月31日まで延長された。八戸市の担当者は「時短営業や酒類の提供制限で売り上げが厳しい。本来の魅力も引き出せず歯がゆい」と話した。
アンテナショップの困難な時期がしばらく続くが、コロナ後を見据え、今後もリアルとバーチャルの二刀流で、国内外の人々に日本各地の魅力を発信し、新たなファンが地域を訪れることを心から願ってやまない。
【筆者略歴】
一般財団法人 地域活性化センター
メディアマーケティング マネージャー
月刊「地域づくり」副編集長
畠田 千鶴(はただ・ちづる)
早稲田大大学院修了。自治省(現 総務省)勤務を経て現職。地域プロモーション、広報、編集、移住関係を担当。内閣府地域活性化伝道師
(KyodoWeekly8月9日号から転載)