コロナ禍が収まって、あなたの最初の海外旅行先となるのはどこだろう。
日本では、新型コロナウイルス感染症の位置づけが5月8日から季節性インフルエンザ並みの「5類」に移行。一方、台湾では日本より一足早い5月1日に分類が引き下げられた。検査や待機、各種証明書の提出などの水際措置が終了し、互いに自由に行き来できる日が訪れたのだ。
これらの状況を受け、台湾観光局・台湾観光協会東京事務所(東京)は、「2023台湾観光プロジェクト再始動」を表明。5月12日に都内で記者説明会を開催した。このプロジェクトの目的は、コロナ禍前と同水準以上に日本人観光客を増やすこと。そのために、どのようなPRやキャンペーンを実施するのかが発表され、どのような思いで日本人観光客を迎えるのかが明らかにされた。
●双方の健全な相互訪問へ向けて
説明会では、最初に台湾交通部観光局 張錫聰(ちょう・しゃくそう)局長が主催者として登壇し、「観光産業は寒い季節を耐え忍び、苦境を乗り越えてきた。コロナ禍の間、お互いに交流の温度を下げないように努めていただいた、台湾と日本、双方の観光業界の皆様にお礼を申し上げたい」とあいさつ。
「台湾の観光資源はとても豊か。日本の方に従来楽しんでいただいていたグルメや文化、美しい景色に加え、ロハスやグリーンツーリズムといった価値のあるコンセプトを打ち出した観光を、新たにパッケージングして商品として打ち出したい」と、コロナ禍の間も準備を進めていたことを明かした。
さらに、台湾を訪れた人に空港のロビーで5000元(約2万2000円)が当たったり、パスポート申請費用の半額を補助したりといったキャンペーン、日本から観光客を送客した旅行社へのインセンティブ(補助金)、さらには女優の川口春奈さんの台湾観光局イメージキャラクターへの就任など、積極的なマーケティング活動を展開することも発表。
「日本と台湾はこれまでも最高の友人で、互いに支え合ってきた。コロナ前までは訪問人数を相互に更新してきた。改めて交流を再開し、より良い未来を切り開き、台湾と日本の観光の最良の時期を迎えたい」と抱負を述べた。
続いて、財団法人 台湾観光協会の葉 菊蘭(よう・きくらん)会長も主催者として登壇。「本日、台湾と日本の観光がついにキックオフすることを宣言したい。2019年は、台湾から日本へ約500万人が訪れ、日本から台湾へは約200万人が訪れた。合わせて700万人という目標を達成した。今年は無理だが、2025年にはその数字を実現したい。
2023年の1月~2月に台湾から出国した人は約150万人。そのうち日本に来た人は50万人以上。日本から台湾に来た人は7万人あまり。差はあまりにも大きい。この不健全な現象を解消するために台湾は努力してさまざまな営業を再起動しなければならない。また、より多くの日本の方々には、台湾に来ていただき、双方の健全な相互訪問が実現し観光が発展するよう助けていただきたい」と力強く願いを込めた。
この日は多くの来賓も訪れており、来賓を代表して3人があいさつに立った。
台北駐日経済文化代表処の謝 長廷(しゃ・ちょうてい)大使は、「大型連休中に富山や群馬で祭りやイベントに参加した。台湾の観光客もたくさんいて、皆うれしそうだった。台湾にもこういう風に日本の観光客がたくさんいるのかなとちょっと想像してしまった。台湾と日本は地理的に近く、似ており、信頼感もとても高い。台湾では安心して旅行できると思う。コロナ前は日本人が選ぶ海外旅行の最初の選択肢だった。日本と台湾の観光業の方はとても努力している。昔に戻れるようにと願っている」と語った。
「長距離恋愛をしていて会うこともなかなかままならなかったカップルが、やっと会える、台湾と日本はそういう心境なのでは」と語るのは、超党派の議員連盟、日華議員懇談会の古屋圭司(ふるや・けいじ)会長(自民党)。「台湾と日本は非常に強い絆で結ばれている。これは歴史の中で積み上げてきたもので、1日にして出来上がったものではない。だからこそ台湾と日本の交流は極めて大切。例えば修学旅行で子どもたちが台湾に行くことは極めて大きな意義がある。コロナ規制緩和で国内の観光客が増えた。環境が整えば、日本人は間違いなく台湾に行く。われわれも側面から応援をしていきたい」とも話した。
一般社団法人 日本旅行業協会(JATA)の小谷野悦光(こやの・よしてる)副会長は、高橋広行会長のメッセージを代読。「観光庁とJATAは合同で『今こそ海外!宣言』を発表した。これは日本国民がもっと海外に出かける機運を醸成するための取り組み。大きな目玉として3000人超にパスポート取得費用を抽選で半額サポートするなどのキャンペーンを盛り込んでいる。それに対し、台湾はいち早く参画し、最も大きな支援をしている。日本からの台湾観光客を2019年レベルに戻し、超えることを目的とした、JATAと台湾観光局の間のMOU(覚書)も調印された。より強固で親密な関係を構築し、早期に目標を達成できるように取り組んで参りたい」などと述べた。
●団体旅行、個人旅行ともにサポートが充実
まさに「機は熟した」感のある日・台間の観光の再始動。台湾側では、どのような準備で日本人観光客を迎えようとしているのだろうか。台湾観光局東京事務所の犬養ゆり子(いぬかい・ゆりこ)アシスタントマネジャーから、具体的な内容が発表された。
今回の取り組みの最も大きな特徴は、団体旅行向けのサポートプログラムが充実していることで、4つのエージェントサポートプログラムが示された。
① 2泊3日以上の旅をする4人以上の団体ツアーを条件として、人数や日数に応じて補助金を出す「訪台団体ツアー客サポート」。
② 4種の募集型企画旅行「ワクわく感謝の旅」「天燈スカイランタン祈福の旅」「路-鉄道の旅」「新規開発旅行商品」に対する旅行会社への補助金サポート。
③ 30人以上の団体を対象に補助金をサポートする「インセンティブツアー/報奨旅行誘致サポートプログラム」。
④ 日本国内の定期便が就航していない地方空港の利用を条件として、利用する台湾の空港により補助金が出る「地方チャーター誘致助成プログラム」と、外国籍および大陸籍大型定期客船に補助が出る「クルーズ客船誘致助成プログラム」。
もちろん、個人旅行へのサポートも盛りだくさんで、5月1日から「海外個人台湾旅行 応援キャンペーン」がスタートした。台湾以外のパスポートを所持し台湾滞在が3日以上90日以内の人を対象に、台湾到着1日~7日前までにキャンペーンサイトからエントリーすると、台湾到着後、空港のキャンペーンカウンターで抽選にチャレンジが可能に。当選者は 5000元分の電子マネーかホテルバウチャーがもらえるという豪華な内容だ。
また、JATAが実施している「今こそ海外!」キャンペーンとのジョイントプロモーションも展開。4月1日にスタートした「応援投稿キャンペーン」では、台湾に渡航した人が旅行先の写真とコメントを特設サイトに投稿すると、審査のうえ選ばれた人に台湾再訪旅行をプレゼント。さらに5月15日 からスタートする「夏旅Wキャンペーン」では、 JATA会員旅行会社を通じて海外旅行をした人に、現地特典として台湾旅行中に使用できる割引クーポンが、旅行後には抽選で台湾伝統のお買い物バッグがプレゼントされる。
アウトバウンド(日本人の海外旅行)の低調ぶりを示しているのが、日本人のパスポート取得率の低さ。もともと先進国でも低水準だったが、2022年には17.8%にまで下がっている。そこで、「パスポート取得費用サポートキャンペーン」もJATAとのジョイントで行われる。JATA会員旅行社を通じて手配した台湾旅行確定者の、パスポート取得費用を半額サポート(抽選で500人)するキャンペーン(5月15日~9月30日)だ。
そのほか、10月21日に台湾・新北市内の小学校校庭で行われる台湾観光局とJATAのコラボイベント「合同天燈上げ」や、5月13・14日に実施のイベント「台遊館in原宿2023」も紹介され、台湾観光局の意欲が伝わってきた。
サプライズとして、台湾観光局のイメージキャラクターに就任した川口春奈さんもビデオメッセージで登場。「台湾は日本から近く、食べ物も美味しく、皆さん本当に親切。これからさまざまな台湾の魅力を伝えてたくさんの日本の皆さんに台湾へ来ていただけるように頑張りたい」とコメントした。
●1人も取りこぼさないというデジタルの理念の観光への応用
そしてこの日は、特別ゲストとして、台湾行政院デジタル担当大臣のオードリー・タンさんも登壇。「日台観光業界におけるデジタルの最新動向と今後の展望」と題して、レクチャーを行った。
「観光の説明会にデジタル大臣の私が来て驚かれているかもしれない。台湾ではデジタルを“数位”と書き、この漢字にはplural(多元的な、複数)という意味がある。ですから私はpluralの担当大臣ということにもなる。私はデジタルの発展の理念としてお互いに多元的に協力をしようという精神があると思っている。時間や空間の距離、言葉の隔たりはあるけれども、pluralityという精神で距離を縮め、ともに同じ空間にいるような感覚を得ることができる。共通の価値を作り出すことができる。デジタルには1人も取りこぼさないという理念がある。この重要な価値は観光や文化の面でとても面白いユニークな応用ができる」と話を切り出した。
そして、野柳地質公園(Yehliu Geopark)や和平島といった人気の観光地が、デジタルを活用すればどんな風により楽しめるかを紹介。例えば、インタラクティブでそこにアクセスできれば、出発する前に行き先がどんなところかを感覚として体験できるし、AIを活用すれば異なる文化の人でもおもてなしを受ける気分になる。高齢者や小さな子どもを連れていても、混み具合や、移動の大変さを事前に知ることができれば安心でき、目が不自由な人はアプリによる音声ガイドで、どこにいるか何が起きているかを知ることができると説明。デジタルなら、バリアフリーで施設を楽しむことができると訴えた。
また、国立故宮博物院では、事前にサイトで国宝を体験することができるし、実際に故宮に行けばアジア最大のインタラクティブウォール「文物互動導覧牆」を利用することができることも紹介。これは、直感的かつフレンドリーなインターフェース(操作画面)と赤外線によるセンサーを用いた幅12メートルに及ぶインタラクティブな映像表示システム。高齢者、身体障がい者、行動が不自由な人など、さまざまな参観者に配慮し、身長などの高さによって使用が制限されないバリアフリーな形で収蔵品を鑑賞できるという。
そのほか、日本の国宝を故宮博物院南院で展示した際に、アバターになって館内を回れるようにしたことで、まるで院長に質問しながらガイドを受けている感覚になった例や、故宮博物院が、Nintendo Switch用シミュレーションゲーム「あつまれ どうぶつの森」で、同館の22個の文化財を再現できるマイデザインを公開した例を紹介。「翠玉白菜」など、同館のシンボルでもある名品を合法的に自分の素材として使うことができるのもデジタルならではとほほ笑んだ。
そして、「各分野で観光のデジタル化を図ることで情報をモーターのように使い多くの人に発信することができる。知恵を集めてより持続的に発展をすることができる。皆さんとの交流を楽しみにしています」と締めくくった。
主催者が異口同音に語っていたのは、「コロナ収束後、最初の海外旅行はぜひ台湾に」ということ。説明会後の囲み取材では大陸との関係を不安視する声も聞かれたが、長い間の友好関係をふまえ、これだけの努力と熱い思いを見せられたなら、次の海外旅行の行き先は自ずと決まってきそうだ。