未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。今回は、弁当作りを通じて子どもたちを育てる「弁当の日」の提唱者・竹下和男(たけした・かずお)先生が、子どものゲーム依存について答えます。
●こどものゲーム依存 ゲームは禁止した方がいいのでしょうか?
【質問】
小学1年生(7歳)の息子がいます。ゲームが大好きで、家にいるとゲームばかりしています。夏休みも始まり、在宅時間が長くなるとともにゲームをする時間も延びがちです。ゲーム機を取り上げることも考えましたが、本人もゲームをするのを楽しみにしているし、短時間ならいいかと思っているのですが・・・。やはり、まったくゲームをさせないほうが本人のためにいいのでしょうか。
▼禁止するのは非現実的だが、イライラしてしまう状態なら赤信号
【竹下和男先生の回答】
同じ悩みをお持ちの親は多いでしょうね。なぜ子どもがゲームに夢中になるかというと目が離せなくなる仕組みの三つをゲーム機が備えているからです。その三つとは①光るもの、②音がするもの、③動くものです。
ゲームは過剰な音響と目まぐるしい映像にあふれています。その画面は、脳に「無視すると生き残れないぞ」と本能を揺さぶり続けているのです。ゲーム依存から脱却させるプログラムは、薬物依存用のそれと同じといわれています。
それにゲーム機の画面は画像や動きで脳を楽しませますが、強い光が明滅を繰り返すので、自覚がなくても脳は疲労を蓄積します。ゲーム中は筋肉・神経も硬直しすぎています。幼児期ほど深刻な影響が心身に残るでしょう。これはとても怖い話です。
しかし、子どものゲームを完全に禁止してしまうのは現実的ではありません。心が喜びを感じる時間を過ごすことには意味があるからです。問題はその時間の長さです。ゲームを「適度」に楽しめている子どもなら禁止しなくていいと思っています。「適度」とは、「ゲームができなくてもイライラすることがない状態のこと」をいいます。
ゲーム機が全くない山中や離島で1カ月暮らして、ゲーム依存を解消したという話はよく聞きます。はじめの短期間はゲームができなくてイライラしていても、あきらめざるを得ないことが分かると自然の中で遊ぶ楽しさを見つけたり、友だちとの外あそびを楽しみにし始めたりします。しかし、そのような体験をさせるのは簡単ではありません。
ゲーム機で遊ぶということは、ゲーム機に自分の意志をボタンやレバーで伝える行為をすることです。そうすると、ゲーム機は忠実に反応してくれます。たとえ操作を間違えても、その通りに反応します。実は、この状況に長時間どっぷりつかってしまうことが怖いのです。それは「この世界は自分が命じたとおりに反応する」と暗示をかけられているようなものだからです。ところが、現実社会では、友だち関係も周囲の人とのコミュニケーションも思うようにならないことばかりです。雲、風、山、川、雨、昆虫、鳥、植物・・・自然界もまた自分の意志が通用しない世界です。ゲーム依存とは社会性が育ちにくい状況なのです。
ゲームができないとイライラしてしまう状態が赤信号であると教えましょう。しかたなく外遊びをしたり、本を読んだり、ボードゲームをしたりしているうちに、楽しみ方が多彩になってイライラを抑えられるようになります。ゲームは1時間ぐらいで満足できるような過ごし方を目指してみましょう。
竹下和男(たけした・かずお)
1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップ、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。