第50回衆議院選挙は最終盤。裏金問題に揺れる自民党が過半数を維持するのか、野党が追い詰めて政権交代もありうるのか?── すべては10月27日の投開票で運命が決するが、こうした全体の情勢とは別に、当落に注目が集まっているのが、裏金問題により自民党内で処分を受けて党から公認を受けられなかった無所属候補だ。
その中の一人は、小選挙区制度が始まって以降、他の候補を寄せ付けず9戦9勝。選挙区内で圧倒的な人気を誇り、各種の情勢調査において今回も当選が有力とされている。筆者はかつて、実際に選挙中にこの候補者の陣営をのぞいたことがあるが、選挙期間中にも秘書が毎日、選挙区内の葬儀社を回り、通夜・告別式が行われるとなれば、すべてに弔電を打つという、どぶ板活動の徹底ぶり。このほかにもこまめに支持者に寄り添うことで、他を圧倒する地盤を築いてきた。
それだけ強固な態勢にあれば、別に公認を得られなくても大丈夫と一見、感じられる。これが地盤も固まっていない新人や期数の浅い候補であれば、看板がないと厳しいといえるだろう。しかし、今回の選挙で自民党を非公認となった候補はどの候補も大物といわれるだけに、選挙戦を勝ち抜くだけなら、公認の有無など影響はないという感じがしないでもない。「非公認って、そんなに重いペナルティなの?」との声がちまたから聞こえてきそうである。
ところが、選挙の現場に入ると、政党公認候補と無所属候補では、選挙活動に大きな差が生じるのだ。いかに普段の選挙が強くても、公認が取れなかった途端、選挙戦ではかなりのハンデを背負うことになる。
最も大きいのは資金面か。政党に公認されると、選挙にかかる費用をサポートする形で公認料が支給される。この額、大政党で約1000万円、中堅の野党でも300万円支給。さらに、立候補する際に、衆議院選挙の小選挙区では300万円の供託金が必要となるが、その金額を政党が持ってくれるほか。事務作業の代行もしてくれる分、金銭的な面だけではなくスタッフの負担が軽くなるのは言うまでもない。
そして、生死に関わってくるのが、政党所属候補は比例名簿されて重複立候補ができるのに対して、小選挙区のみの立候補に止まる点だ。重複立候補は、小選挙区で敗れても、当選者に対する得票で惜敗率が高ければ、比例復活という形で当選となるが、無所属の場合は小選挙区で1位にならなければ、それで敗戦が確定──つまり、公認候補の比例との重複立候補は安全弁として働くのだ。とくに、接戦となった場合、重複候補であるのと、そうでないのとでは大きな差があるといえよう。
そのほか、ポスターは公認候補が公設掲示板のほかに1000枚分を追加可能、ビラは通常に7万枚に政党分の4万枚を追加可能、選挙カーも無所属候補が1台のところ、公認候補は政党カーを回すことができる──等々、無所属候補は圧倒的に不利なのだ。
政見放送も無所属候補はない。売名行為と思えるようなパフォーマンスが、参議院選挙や東京都知事選挙などで見られるが、それはこれらの選挙では政見放送があるため。とにかく選挙の場で目立とうするのが主目的である候補は、衆議院ではなく政見放送に出られる参議院選挙や東京都知事選挙に出馬するのは自然の流れとなる。
以上のように、無所属は公認候補に対して、大きなハンデがある。最近になって、裏金問題で処分された無所属候補に2000万円の資金を供与したことが露見したが、この資金をもらう立場からすれば、とてもありがたい──そう思っているはずである。 (文・水野文也)