この夏、政府が「地方の女性の起業を後押しする」と発表したニュースを目にしました。自治体と連携し、起業講座や仲間づくりの場を整えていくのだそうです。少し大げさかもしれないけれど、「やっと時代が少し優しくなってきたな」と、うれしくなりました。
私自身、友人と2人で小さなチョコレートブランドを始めたのは2年前のこと。お互い子育て中の母親で、私はシングルマザー。決して余裕があったわけではなく、むしろ「今じゃないかもしれない」と何度も思いました。でも、同じくらい「今やりたい」と強く感じていた私は、大きな挑戦を始めることにしたのです。
会議はできるだけ夕方までに終えるようにして、保護者会や子どものお迎えも〝仕事の一部〟としてスケジュールに組み込みました。夜の会食や懇親会も、「今は子育て中なので」とお伝えし、基本的には参加していません。無理に〝起業家っぽく〟振る舞うより、私たちの暮らしに合った働き方を貫こうと決めていました。
とはいえ、うまくいかないこともたくさんあって。売り上げが伸びない日は落ち込んで、家でつい大きなため息をつくことも。それでも、そういう日もちゃんと話すようにしてきました。子どもにも、親にも、かっこつけずにありのままを。だからこそ、家族も自然と応援モードになってくれたのだと思います。
デビューイベントとして、伊勢丹新宿店で昨年10月末から2週間のポップアップを開催しました。あの伊勢丹で、自分たちのチョコレートを並べるなんて、夢のようで現実で。でも、もっと驚いたのは、恥ずかしがり屋の娘が友達と一緒にお店を見に来てくれて、近くのスタッフの方に「地下でチョコのポップアップをママがやってるの」と宣伝してくれていたこと。そんなふうに、小さな背中が支えてくれる日がくるなんて、起業したばかりの頃は思ってもいませんでした。
今、社会の風向きは少しずつ変わってきています。女性や母親であることを理由に「できない」とされてきたことに、「それでもやってみたい」と手を挙げられる空気が生まれつつあります。そしてその挑戦は、都会でも、地方でも、どんな暮らしの中からでも始められるものだと思います。
自分なりのペースでもいい。自分たちらしい形で、暮らしの延長線上に夢を描いていい。そんな実感を、娘の言葉や仲間の支えの中で、少しずつ得られている今。私は今日も、暮らしと仕事のあいだを行き来しながら、できることを積み重ねています。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 28からの転載】
ひらい・りお 1982年東京生まれ。2005年、慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビ入社。スポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターを務め、オリンピックをはじめ国際大会の現地中継などに携わる。13年フリーに転身。ニュースキャスター、スポーツジャーナリスト、女優、ラジオパーソナリティー、司会者、エッセイスト、フォトグラファーとして活動中。