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「桃鉄に枚方を追加しました」 KONAMIが小倉小学校で報告、2年前のガチプレゼン実る

桃太郎、コナミデジタルエンタテインメントの岡村憲明プロデューサー、枚方市キャラクターひこぼしくんと記念撮影する小倉小学校の先生と卒業生

 先日発売されたKONAMIの『桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~』(以下『桃鉄2』)。多くの物件駅が追加された中でも、特に注目なのが大阪府の枚方だ。というのも2年前、『桃鉄 教育版』に「枚方を追加してほしい」と制作陣に訴える小学生たちの熱いプレゼンが行われていたからだ。

 ▽プレゼン受けて「マイ桃鉄」機能誕生

体育館で『桃鉄2』枚方追加の報告を受ける小倉小学校の全校児童と卒業生

 『桃鉄2』発売日の翌11月14日、枚方市内の小倉小学校の体育館でサプライズ報告会が開かれた。中学2年生になった当時の6年生と在校児童が集まり、KONAMIから『桃鉄2』に物件駅として枚方が追加されたことが伝えられた。

 KONAMIにプレゼンを行ったのは24年2月。当時、『桃鉄 教育版』を授業で活用していた同小では、マップに枚方駅がないことに気付き、まちの魅力をまとめて追加を訴えた。プレゼンを聞いたのは、『桃鉄2』では副監督を務めたゲームクリエーターの桝田省治さんと岡村憲明プロデューサーだ。

 報告会では岡村プロデューサーが登場し、「皆さんのプレゼンをきっかけに、『桃鉄 教育版』に“マイ桃鉄”という新機能が生まれた」と明かした。「マイ桃鉄」とは、任意のマスについて最大8駅、各駅につき8つの物件を登録できる仕組みだ。

 「もともと物件を編集できるエクセル機能を作っていたんです。でも難しすぎて使ってもらえなかった。そんな時にあのプレゼンがあり、『このマスのあたりが枚方だと思うんです』と生徒が指し示すのを見て、『なるほど!』と。その場で桝田さんに『こういう形だったらできると思いますがどうですか』と聞いたら『いいんじゃないか』と返ってきて、制作チームに伝えました」

 こうして、小倉小のように授業で調べた内容を、そのままゲームとして再現できるようになった。物件の価格や収益率も自分たちで設定でき、学びの幅はさらに広がる。

 「プレゼンで聞いたことが仕様として形になったこともよかったし、現場の肌感や声を生で聞けたのはすごくうれしかった。とてもよい取り組みだった」と岡村プロデューサーは振り返った。

「プレゼンで厳しいって言われていたから、枚方が追加されたことにびっくり。頑張ってよかった」と話す枚方第一中学校の2年生たち

 

▽一字一句が胸に残った“ガチ講評”

右は当時6年1組の担任だった山本健斗先生、左は当時6年2組の担任だった弘元典先生

 6年1組の担任だった山本健斗先生は、子どもたちの発表を「国語の授業としては100点満点」と評価するほど完成度が高かったと語る。しかし、桝田さんの第一声は「無理です」だった。

 「厳しい目でコメントしてほしいとお願いはしていました。でも、多くの企業は子ども扱いというか、よかったよとまとめることが多い。そんな中、もしこれが会社で上がってきたプレゼンならこう返す、という形でズバッと言ってくださった」と山本先生は明かした。

 6年2組の担任だった弘元典先生は、「プレゼン後の子どもたちの悔しそうな顔とショックな顔、リベンジに燃える顔を今でも覚えている」と話す。講評の内容は強烈で、今でも「一字一句」覚えているという。

 紹介された指摘の一つがこれだ。

 「他の人より前に出ていこうとするなら、他の人と同じことをしていたらダメ」

 弘元先生は「プレゼンの中で、誰かと違う、キラッと光るようなところを見せないといけないと指摘された。逆に光る部分があるプレゼンをした子がいたことも、ちゃんとわかってくださっていて、褒められた子はすごく喜んでいた」と語った。

 さらに、提案が採用されるためには「100個考えて1個採用されればいい。いっぱい失敗するしかない」という助言もあった。

 「今の子どもたちも私たち大人も失敗が怖い。でもそこをプラスに捉えて、失敗があるからこそ、その中の一つが形になるかもしれないということを第一線で活躍する方々から聞けたことがうれしかった」と弘元先生は続けた。

 山本先生が「教師としての価値観が少し変わった」と打ち明けたのは、「現実にはライバルがいて比べられる」という指摘についてだ。

 「今の教育が重視しているのは、個別最適な学びと協働的な学び。今の子どもたちは助け合いながら一つの課題に取り組むことはかなりできるが、あの講評を聞いて、社会には違う場面もあることを教えていかないと、社会に出た時に仲良くしているだけでは先に進めないと悩んでしまうのでは」と考えるようになった。

 岡村プロデューサーは桝田さんの講評をそばで聞きながらこう思っていたという。

 「正直、最初は子ども相手に何を言っているんだろうと思った。でも、愛のある発言をしていたことはすごくよくわかった。あそこで言われたことって、僕らや若い社員が普段言われていることと同じなんです。桝田さんは僕にとっても師匠。そういった意味で、桝田さんから講評を聞けた経験はすごいことだし、それをちゃんと受け止められたこともすごい。あの講評、うちの若い子たちにも聞かせてあげたかったです」

 

▽2年越しの伏線回収

小倉小学校の校長室でインタビューに答えるコナミデジタルエンタテインメントの岡村憲明プロデューサー

 人生の早い段階で壁を知ることができたことは、大人から見れば「すごくいい経験」ではあるものの、「当人たちがどう感じているのか」は山本先生も気になっていた。

 枚方第一中学校の2年生になった彼らは、「リベンジしたいか」という質問に深くうなずいた。

 「今の自分の力を試してみたいのはあります。小倉小卒業生でメンバーを集めて」

 「ひらかたパークとか有名な場所ばかり発表したけど、もっと違う枚方のいいところを調べればよかったと思っていました」

 悔しさは「今につながっている」とも答えた。

 「他の人のプレゼンを見て回って、自分たちのプレゼン考えるようになった」「文字を大きくし、台本は別々で書く」など、提案力や発表資料の作成力が格段に向上した。

 視点の幅も広がった。以前は有名スポットだけを調べていたが、地元民にとって大事な場所など別の視点にも目を向けられるようになった。「先生から言われる前に、先生の立場になって何て言われるかを考える」というメタ認知力も育っていた。

 子どもたちの成長ぶりを聞いた岡村プロデューサーは「ちゃんと学びになっていたんだと思うと、ちょっとうれしいですね」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 しかも、その吸収力と発展スピードは想像の上を行く。

 「講評がちゃんと届き、考え方が変わっているのがすごい。『先生の立場になって考える』というのは、実は僕が60歳手前にしてようやく気付いて後輩たちに伝えていること。受け手側のことを考えよう、自分のやりたいことだけやっていてはダメ。それが全てのプレゼンの基本です。それを中学生で言えるとはね」

 あの日の“ガチプレゼン”と“ガチ講評”は、2年の時を経て、確かな成長となって子どもたちの中に息づいていた。

『桃鉄2』の枚方で買える物件