2019年に「ニムロッド」で芥川賞を受賞した作家・上田岳弘による長編小説を舞台化した「キュー」が11月15日から上演される。本作は、瀬戸康史演じる心療内科医・立花徹と、有村架純演じる高校時代の同級生・渡辺恭子の人生が交差することで、過去・現在・未来を行き来しながら、「私とは何者なのか」「人間とは何か」という普遍的なテーマを描く。瀬戸と有村に公演への思いを聞いた。

-今回のオファーを受けて、本作のどんなところに引かれましたか。
瀬戸 まずは白井(晃)さんが演出をされるということが大きかったです。10年ほど前にご一緒させていただき、それ以降も、舞台を見に行ってお会いするたびに「また何かやりたいね」というお話をしていたのですが、紆余(うよ)曲折あり、やっと今回ご一緒できます。原作の小説を読ませていただきましたが、非常に奥深く、一読しただけでは消化しきれない難しさがありました。でも、読み終えた後にはなんだかスッキリするところもあって。上田(岳弘)さんと白井さんが書かれた上演台本を読んで、思考がつながって「なるほど」と腑(ふ)に落ちたんです。ぼやけていたものが徐々に鮮明になって一歩一歩進んでいる気がしています。
-有村さんは最初にお話を聞いていかがでしたか。
有村 私も白井さんが演出されるというのが大きかったです。最初はストーリーを読んでも全然分からなくて(苦笑)。なので、まずお話を聞いてみようと思って、白井さんとお会いしたんです。白井さんとは12年前の「ジャンヌ・ダルク」という作品以来でしたが、熱量の高いお方なので、「今の現代を見ていると危機感を覚えるし、何かの節目が今なのかもしれない」と熱く語ってくださり…そうしたお話を聞いていくうちに、この物語が伝えようとしているテーマみたいなものが見えてきて、なるほどと思い、お引き受けいたしました。私にとって舞台は3作品目ですし、今回は三役演じさせていただくので、荷が重いとも思いましたが、瀬戸さんもいらっしゃるので、挑戦させていただこうと思いました。
-お二人とも「白井さんが演出を務めるから」というのが本作への出演のきっかけになったとおっしゃっていましたが、白井さんからの演出で印象に残っていることはありますか。
有村 白井さんはとにかくストイックで、貪欲で、向上心の鏡のような方だと思います。「ジャンヌ・ダルク」という作品は、私が演じる4年前に、堀北真希さんが演じて初演をされていましたが、白井さんが「堀北くんのジャンヌは高貴なジャンヌだったけど、有村くんは地に足がついた、一人の少女が村を変えようと頑張っている庶民派のジャンヌだったよ」と言ってくださり、すごくうれしかったです。舞台は初めてで、経験も少ない自分がそんなふうに見せることができたんだと。「ジャンヌ・ダルク」を千穐楽までやり切れたことも含めて、大きな自信になりました。
瀬戸 白井さんは、きちんと叱ってくださる方だと思います。もちろんそれはストイックが故にというところはあると思いますが、愛がないと俳優を叱れないと思うんですよ。白井さんのおかげで今も俳優を続けているというくらい、僕の俳優人生を変えてくれた人なので、感謝もあります。余計なものを全て削ぎ落としてくれたんですよ。変なプライドを持っていて、「舞台ではどう動こうか」ということばかり考えていたのですが、白井さんはそんな僕に「自分が思うままにやる」ということを教えてくれました。「芝居だけど芝居をするな」と言われたことを覚えています。当時は、その言葉の意味が分からなかったのですが、それはきっとその世界になじめということなんだろうと思います。いつも頭の片隅に置いて仕事をしている言葉です。
-演じる役柄についても教えてください。
瀬戸 僕は心療内科医の立花徹を演じます。世の中に流されてなんとなく生きている人の象徴です。観劇してくださる方は、立花の目線で物語を見る方も多いのかなと思います。僕自身も、こういうところがあるかもしれないなと感じる瞬間も多いので、共感しやすい人物だと思います。そうした立花が時を超えて、さまざまな人と関わって、人間として成長していきます。そして、どんな考え方を見つけるのか、どんな考えで行動するのかが描かれます。
-有村さんは、今回、三役を演じます。
有村 椚節子さんと、渡辺恭子さん、それから女型の「Rejected People」です。さらに渡辺恭子さんは、高校生と38歳、2つの年齢を演じるんです。
-なるほど。渡辺恭子という役柄にはどんなイメージを持っていますか。
有村 椚節子さんの記憶があるという特殊な体質と、第六感を持っている女性で、おそらくたくさんの人とコミュニティーを作ってきたのではなく、自分独自の世界を持ちながら、周りの人たちを俯瞰(ふかん)して、達観して生きてきた人なのではないかと思います。
-渡辺恭子の「私の中には、第二次世界大戦が入っている」という言葉はすごくインパクトがあります。そうした人物を役として作っていくのはなかなか大変な作業になりそうですね。
有村 実は輪廻転生をする役どころは3度目なんですよ(笑)。なので、これはもしかしたら何かあるのかもしれないなと、ポジティブに考えています。
-瀬戸さんと有村さんは、9年ぶりの共演になります。お互いの印象を教えてください。
瀬戸 ストイックですよね。
有村 どうなんでしょうね。昔よりは肩の力が抜けてきているように思いますが。
瀬戸 それはきっといろいろな作品を経験したことで余裕が出てきたんじゃないですか。ストイックなイメージがありますし、ピュアで真面目な人だと思います。
-有村さんは瀬戸さんにどんなイメージがありますか。
有村 飾り気がなくて、ずっとこのままです。たたずまいも雰囲気も、全く変わっていなくて、前回の共演が9年前とは思えないです。久しぶりにこうしてお話をさせていただきましたが、あの頃のままだなと感じています。時間が空くと、関係がリセットされてしまったような感覚があるんですが、それが全くないので、とても安心しています。
-小説を原作とした本作を舞台化することの面白さや魅力はどんなところにあると感じていますか。
瀬戸 人間が演じるというところが一番大きいと思います。特に、舞台などでダブルキャストだと、演じる人が違うとこんなにも違うんだということを感じていただけると思いますし、人が演じるからこその面白さもあります。しかも、舞台では目の前で演じているので、呼吸をする音まで聞こえたり、汗が落ちるところが見えたり、唾が飛ぶ様子が見える、そうした生々しさまで伝わるのが魅力だと思います。
有村 映像は完璧な状態で世に届きます。でも、舞台は生ものです。なので、本当はそこで抜く予定ではなかったけれども、力が抜けてしまったなどの、ちょっとしたニュアンスまで感じていただけると思います。そういう意味でも、舞台は楽しいなと思います。
-ところで、本作は「私たちがどこから来て、これからどこへ向かうのかという問いを投げかける作品」ですが、お二人がこれから先の未来に思い描く、理想の自分、理想の世界は?
瀬戸 切実な願いですが、俳優の業界も子どもがいても働きやすい世界になってほしいです。僕たちの世界でも、子育てをしながら働くのは、とても大変なんですよ。もちろんシッターさんにお願いすることもできますが、やっぱり家にあげるのはハードルが高い。妻が仕事をしているときは僕が子どもを見て、僕が仕事をしているときには妻がと、交互に仕事をすればいいのですが、なかなかうまいタイミングで仕事ができないんですよね。いろいろなハードルがあるなと思うので、それが少しでもなくなっていけばいいなと願っています。
-どんな環境がベストだと思いますか。
瀬戸 子どもを現場に連れて行けるのが良いのかなと思います。いろいろな事情もあるだろうし、難しいのは分かるのですが、例えば、撮影現場や稽古場に託児所があるとか。
-なるほど。有村さんはいかがですか。
有村 私自身は年齢を重ねるごとに柔軟になっていきたいとずっと思っています。経験を積んだり、いろいろなものを知ると、自分の考えが出てきますが、それで意固地にならずに、崩していける大人になりたいと思います。
-最後に、公演に向けた意気込みと、読者にメッセージをお願いします。
有村 原作ファンの方はもちろんですが、何だか難しそうだなと構えていらっしゃる方も、難しく考えず、気軽にこの演劇の世界に飛び込んでもらえたらうれしいです。見てくださる方が少しでも理解を深められるように、私たちも稽古を重ねて演じたいと思います。
瀬戸 不安な気持ちを抱えていたり、何か分からないけれどどんよりしていたりする方にこそ見ていただきたい作品です。何か一歩を踏み出す、もしくは、一歩戻ってみるきっかけになるのではないかと思います。閉じ込められているものを解き放ってくれる作品になると思うので、ぜひたくさんの方に見ていただきたいです。
舞台「キュー」は、11月15日(日)~29日(日)に都内・東京芸術劇場プレイハウス、12月4日(金)~6日(日)に大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演。








