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長浜グルメを満喫 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」

しょうゆと砂糖、みりんで時間をかけて煮込むので骨も食べられる「焼鯖そうめん」

 長年の念願だった滋賀県の長浜を訪れた。琵琶湖の北東部に位置し、豊臣秀吉が初めて一国一城の主になった地である。NHKの大河ドラマ「豊臣兄弟!」では長浜城を構えて城下町を整備していく様子が描かれたが、昭和期に再興された天守は歴史博物館として学びの場となっている。周囲には浅井長政とお市の方ゆかりの小谷城跡、秀吉と柴田勝家が激突した賤ヶ岳古戦場など、戦国時代の遺跡が豊富だ。

 長浜駅前には、秀吉にお茶を差し出している石田三成の像が立つ。三成は地域の人気者で、生誕地の長浜、秀吉と出会った米原、城主になった佐和山城跡のある彦根の3市ではご当地グルメの「三成めし」が食べられる。びわ湖・近江路観光圏活性化協議会が認定する飲食メニューで、旗印「大一大万大吉」の焼印を押した和菓子、秀吉に献じた茶にまつわるカクテル、関ヶ原の戦いで敗れた後、食したとされるニラ粥など80種類以上もあり、実にバラエティー豊かだ。

 だが、琵琶湖特産のおいしいものといえば、何といっても湖魚。今回「琵琶湖の宝石」と呼ばれるサケ科の固有種、ビワマスにありつけた。琵琶湖に注ぎ込む川の上流で孵化した稚魚は初夏に琵琶湖に下り、3〜4年回遊生活して大きいものは60センチほどに成長。秋になると生まれた川に戻って産卵する。資源保護のため30センチ以下の個体は捕獲が禁止され、10、11月は禁漁になる。水深が深い北部に多く生息し、長浜では夏の名物だ。

ビワマスの洗い。刺身を冷水でしめて食感をサクッとさせている

 長浜にはビワマスの塩漬けと飯、麹を漬け込んで乳酸発酵させた「こけらずし」という伝統食品があるが、まずは刺身でいただいた。美しいサーモンピンクで、脂がよくのっているが、輸入サーモンのように濃厚すぎず、あっさりとして上品。餌にするヨコエビやコアユに由来するものか、独特のよい香りが余韻に長く残るのが印象的だった。

 代表的な郷土料理は、意外にも海の魚を使った「焼鯖そうめん」である。

長浜ではスーパーの惣菜売り場で、「焼鯖そうめん」を手軽に購入できる

 福井県の小浜から京都に海産物を運ぶ道は古くから「鯖街道」と呼ばれて有名だが、長浜にも敦賀からのルートがあり、鯖が手に入りやすかった。稲作が盛んなこの地域では田植えで忙しい時期、農家に嫁いだ娘に実家の親が保存食である焼鯖を贈ってねぎらう「五月見舞い」という風習があった。その焼鯖を甘く濃い味に煮込み、うま味たっぷりの煮汁で硬めにゆでたそうめんをからめた一品だ。簡単に作れ、滋養豊かなことから農繁期の定番になった。

 いまではご馳走料理として各家庭に伝承され、若い世代にも愛されるソウルフード。鯖の食べ方としてとても珍しく、絶妙においしい。

 

はたなか・みおこ 専門は近現代の流行食。料理本の編集も。著書に「ファッションフード、あります。」(ちくま文庫)など。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.31からの転載】