通信のインフラをつくり、支えてきたNTTグループが、今度は「食のインフラ」をつくろうとしている。
2023年に京都大学発の水産ベンチャーと共に、NTTグリーン&フードという合弁会社を設立。NTTらしく最先端のIT技術を全面的に活用しているのかと思ったら、実は泥臭さと温かさにも溢れていて、良い意味で期待を裏切られた。
NTTが特に力を入れるのは、政府の経済対策の重点施策にも盛り込まれる陸上養殖だ。静岡県磐田市にある国内最大級の陸上養殖プラントでは、バナメイエビを生産。エビの行動予測や生産歩留まり予測にAIを活用するなど、やはりIT技術を活かしている。
しかし現場で働く担当者は、「大切なのは、実際に目で見て触ることです」と語ってくれた。生き物を健やかに育てるには、微細な変化を捉える人間の感覚が重要であり、その気付きを数値データ化して集積・分析してこそ、将来的にデータ・ドリブンな運用ができるようになるという。
この担当者も元々は都会のオフィスでパソコンに向き合う日々だったが、今は毎日プラントで泥臭くエビと向き合い続けている。少し驚いたが、一次産業には欠かせない真摯な姿勢に感銘を受けた。
そうして目指すのは、少人数かつ遠隔からでも運営できる仕組みづくりだ。深刻な人手不足が加速する水産現場で、地域産業を維持し、食糧危機の解決に向き合うには、新たな働き方の基盤を整える必要がある。
例えば静岡では遠洋漁業が盛んで、漁師さんの引退年齢が比較的低い。そんな元漁師さんのセカンドキャリアとして、NTTのプラントは絶好の舞台になるだろう。
元漁師さんは、魚のプロとして水産物に向き合ってきた経験を活かして活躍でき、そのデータが集まる程にAIや遠隔作業の精度も上がっていく。人の強みとITの強みを掛け合わせた仕組みは、全国各地で必要とされそうだ。
またNTTは生産した水産物を起点に、地域全体への貢献も目指している。磐田市で生産するエビは「磐田の『幸』『福』なえび(幸えび・福えび)」としてプロモーション。地元の老舗企業と加工品を作るなど、地域全体のブランディングを図っている。こうした取り組みを全国20カ所で実施したいと言うが、対象はエビに限らない。地域ごとに課題をヒアリングし、その土地で本当に必要な技術や水産物を提供する方針だ。
効率だけで考えれば一つの水産物に集中するのが良さそうだが、地域ごとに寄り添う姿勢は、まさに通信インフラを様々な方法で日本全域、条件不利地域にまで拡げてきたNTTらしい。
IT技術だけに頼らない。泥臭さや、地域を大切にする温かさをもったNTTがつくり出す「食のインフラ」がどのようなものになるのか、食の未来が楽しみだ。
なかがわ・めぐみ (株)ウオー代表取締役。「釣り・漁業×地域活性」を軸に日本各地で観光コンテンツの企画・PRなどを行う。漁業ライターや水産庁・環境省などの委員も務める。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.32からの転載】







