2月頭、突然受けた質問の内容に衝撃を受けた。私たちが住む日本はぐるりと海に囲まれており、国土の総海岸線は約3万5千キロ。これは世界第6位の長さになる。
沿岸では漁師さんをはじめとした漁業関係者がお仕事をされていて、私たち生活者も海水浴や釣り、マリンスポーツなどを楽しんでいる。また住居を構える方も多く、世界的にも沿岸に親しむ国だといっても過言ではないだろう。それなのに、詳細な地形図がほとんどないとは驚きだ。
これまでも船などによる測量は行われてきたが、その精度には限界があり、そもそも浅瀬で船が入れない場所も多かったという。その上で海岸線は国土交通省、水産庁、環境省、海上保安庁をはじめ複数の行政・自治体が複雑に管理しており、誰かが率先して音頭を取ることが難しかった。
そうした中で立ち上がったのが、日本財団だ。2022年に「海の地図プロジェクト」を発足し、近年可能になった航空測量で32年までに総海岸線の約90%の浅海域(水深0〜20メートル)を測量・地図化するという。
今年の1月時点で既に約25%の地図化ができているそうで、一部の画像データはプレスリリースとしてインターネット上にも公開されている。精度は素晴らしく、筆者が仲良くさせていただいている漁師さんたちに見せたところ、これはすごい!と感動されていた。
この地図には多様な活用方法があると思われる。例えば防災対策だ。これまでは「陸地」と「深い海」の地形図は詳細なものがあったのに、その間にある「浅い海(沿岸部)」の情報が歯抜けになってしまっていた。そのピースが埋まることで、地震や津波などが起きた際のより精緻なシミュレーションができるのではと、一部専門家たちが期待を寄せている。
また能登半島一帯の測量を震災前に済ませていたため、地震後の再度の測量で、隆起や新たな岩礁形成の精緻な比較データが取れ、これも各地でのシミュレーションや対策に役立ちそうだ。
他にも水難事故防止といった日常的な守りへの活用はもちろん、攻めの活かし方としては、資源保護(魚礁設置や保護区制定など)を通して水産資源を増やしたり、効率的な漁を考えたり。はたまたより魅力的かつ安全なレジャー・教育のコンテンツ開発など、たくさんの活用方法が考えられる。
一見難しそうに聞こえる「測量」のニュースだが、出来上がってくる地図は「宝の地図」になり得るのではと筆者はわくわくしている。これまでは未知であるが故に、一部の人しか議論さえできなかった沿岸の活用。これからは専門家や漁業関係者はもちろん、大人も子どももみんなでこの地図を囲み、未来に繋(つな)がる取り組みをわいわい話していけそうだ。