『フラッグ・デイ 父を想う日』(12月23日公開)
1992年、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であるジョン・ボーゲルが、裁判を前にして逃亡した。ジョンは巨額の偽札を高度な技術で製造したが、それを知った娘のジェニファーは、父に対して複雑な思いを抱く。
ジャーナリストのジェニファー・ボーゲル(訳ありの彼女を受け入れ、ジャーナリストへの道を開いた大学が素晴らしい)が、2005年に発表した回顧録を原作に、愛する父が実は犯罪者だったと知った娘の葛藤と、切るに切れない家族の絆を、実話を基に描く。
描かれる時代は、1975、81、85、92年だが、ジェニファーの回想ということで、あえて時系列を崩し、過去と現在を交錯させながら描いている。
ショーン・ペンが初めて自身の監督作に出演し、女優のロビン・ライトとの間に産まれた娘のディランと息子のホッパーと親子役を演じた。そういう意味では、究極の家族映画ともいえる。
父の正体を知り、苦悩しながらも、弱さや矛盾に満ちた父に愛情を抱く娘をディランが熱演している。こういう家族共演の映画を見るたびに、一体どんな気持ちで演じているのだろうという興味が湧く。
タイトルは、アメリカ国旗制定記念日のことで、この日はジョンの誕生日でもあるのだが、劇中で「フラッグ・デイに生まれた男はどうしょうもない駄目男」というせりふもあった。
というわけで、この映画は、いわゆる毒親、駄目おやじの話なのだが、このジョンという男、調子がよくてうそつきなのにどこか憎めない。変な話、『男はつらいよ』の寅さんを思わせるところがある。
たとえ、困りごとがあっても、何か問題を抱えても、切るに切れない家族という存在は、年を取るほど重くなる。
「家族とはやっかいだけどいとおしい」、そして、悲劇と喜劇は常に紙一重だということ。これは山田洋次監督が、『男はつらいよ』シリーズをはじめとする、自作の中で一貫して語ってきたことだ。それがこの映画にも当てはまるところがあって、少々驚いた。
(田中雄二)