『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』(1月13日公開)
大物映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を告発し、「#MeToo 運動」の火付け役となった2人の女性記者による回顧録を基に映画化した社会派ドラマ。
ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、大物映画プロデューサーのワインスタインが、数十年にわたって、複数の女性たちに行った性的暴行についての取材をする中で、彼が、これまで何度も記事をもみ消してきた事実を知る。
被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や、暴行によるトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が映画業界の隠匿体質にあると気付いた記者たちは、取材を拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。
ブラッド・ピットが製作総指揮をし、監督は『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』のマリア・シュラーダー。実際の被害者の一人であるアシュレイ・ジャッドが、本人役で登場する。
新聞記者が大きな事件の真相を暴く、しかも実話の映画化という形式は、例えば、『大統領の陰謀』(76)(ワシントン・ポスト/ウォーターゲート事件)、『スポットライト 世紀のスクープ』(15)(ボストン・グローブ/カトリック司祭による性的虐待事件)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)(ワシントン・ポスト/アメリカ国防総省の最高機密文書)、『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(17)(ナイト・リッダー/イラク戦争の大量破壊兵器捏造問題)など、枚挙にいとまがない。
ところが、そのほとんどが、男社会の新聞社が舞台で、男性記者が活躍するというパターンだった。それに対してこの映画では、事件の内容もさることながら、2人の女性記者が中心になっている。そうした変化からも、これはまさに“今の映画”だと思わずにはいられなかった。
記者が、単なるスクープ狙いではなく、本当に対象者の身になって取材し、それを記事にした。だからこそ、被害女性たちも声を上げたのだ。これが男性記者だったら、こうはいかなかったはずだ。否、そもそもこの事件を記事にしようと考えただろうかということ。これは報道の根幹に関わる問題でもある。
この映画、娯楽的に見ても、全体的にテンポがよく、2人の女性記者の日常生活の描写や、サスペンスフルな話の展開という点でも見事なものがあった。マリガンが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)とは180度違う役柄を演じていたのにも驚かされた。
(田中雄二)