『ボーンズ アンド オール』(2月17日公開)
人を食べたいという衝動を抑えられない18歳の少女マレン(テイラー・ラッセル)は、同じ秘密を抱える青年リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。
自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を初めて見つけた2人は次第に引かれ合うが、同族は絶対に食べないと語る謎の男サリー(マーク・ライランス)の出現をきっかけに、危険な逃避行を迫られる。
『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノ監督とシャラメが再びタッグを組み、人食いの若者たちの愛と葛藤を描く。
第79回ベネチア国際映画祭では、グァダニーノ監督が銀獅子賞(最優秀監督賞)、ラッセルがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞したが、アメリカでは宗教的な問題もあり、賛否両論が飛び交っているという。
カニバリズム(人食い)を、マイノリティーや差別、行き場のない者たちのメタファーとして描いているのは分かるのだが、自分は人食いの場面や血の洪水の生々しさが生理的に駄目だった。ところが、試写室の隣の席の女性は泣いていた。これは究極の愛を描いているのか、それとも、げてものの類いに入るのか…。いずれにせよ、評価や好悪は大きく分かれると思う。
また、これは吸血鬼やゾンビとも違う新手のホラーと呼ぶべきなのかとも思ったが、この映画を見ると、「食べちゃいたいぐらいかわいい」とか「骨まで愛して」などという愛の言葉が、不気味に感じられたりして、ちょっとおかしな気分になる。
ただ、全米各地を転々とする行き場のない男女の逃避行の様子は、1970年代のニューシネマのロードムービーをほうふつとさせるところがあったのだが、今時は単なる逃避行を描くだけでは成立しないのか…とも思わされた。
(田中雄二)