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マイケル・B・ジョーダンの“監督デビュー戦”『クリード 過去の逆襲』/いい意味でのB級SF感が漂う『65/シックスティ・ファイブ』【映画コラム】

『クリード 過去の逆襲』(5月26日公開)

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 トレーナーとなったロッキーの魂を引き継いで名世界チャンピオンとなったアポロの息子アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)。引退した彼の前に、刑務所から出所した幼なじみのデイム(ジョナサン・メジャース)が現れる。

 2人はかつて兄弟同然の仲だったが、アドニスの少年時代のある過ちによってデイムは18年間の服役を強いられたため、アドニスへの復讐(ふくしゅう)を考えていた。

 そして、アドニスがプロモートしたチャベスを破って世界チャンピオンとなったデイムに、アドニスは封印してきた自らの過去に決着をつけるべく、挑戦することを決意する。

 「ロッキー」シリーズを継承した「クリード」シリーズの第3作。前2作に続いてジョーダンが主演し、今回は自ら監督もした。アドニスの妻ビアンカを前2作に続いてテッサ・トンプソンが演じている。

 前2作に登場したロッキー(シルベスター・スタローン)の姿はない。つまり、「ロッキー」から完全に独立した「クリード」の話になり、黒人たちの主張や生きざまを前面に押し出した作りになっている。そこに、人種問題や貧富の差、娘の障害などの問題を入れ込むところも現代風。これはこれでいいと思う。

 ただ、ジョーダンがアニメを参考にし、IMAXカメラで撮ったボクシングシーンは、激しいものはあったが、デフォルメや技法の方が目立ち、かえって作り物のように見えるところがあった。また、出所したばかりのデイムがいきなりチャンピオンになるという設定にも、いささか無理があると感じた。

 チャベスとデイムとのタイトルマッチを、無名の負け犬にチャンスを与えたアポロとロッキーの初戦になぞらえていたが、ロッキーは仮にもプロボクサーだった。出所したばかりのデイムはいわば素人ボクサー。この違いは大きい。

 一方、デイムとクリードはブランクのある者同士の対決であり、昔デイムがクリードにボクシングを教えた因縁もあり、それなりに説得力がある。

 というわけで、マイケル・B・ジョーダンの“監督デビュー戦”は、引き分けといったところか。

『65/シックスティ・ファイブ』(5月26日公開)

『65/シックスティ・ファイブ』

 長期探査ミッション中の宇宙船が、小惑星帯と衝突して墜落。船体は破壊され航行不能となる。生き残ったミルズ(アダム・ドライバー)は、切り離された脱出船を見つけるため、未知の惑星を探索する中で、コア(アリアナ・グリーンブラット)という少女を発見する。実は2人がいるのは6500万年前の地球で、恐竜を絶滅させた巨大隕石(いんせき)の衝突まであとわずかだった。

 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)をはじめ、さまざまなジャンルの出演作が続く実力派のドライバーが主人公を演じる。娘を亡くした男と、父母を亡くした少女がバディとなり、恐竜たちとの闘いを繰り広げるSFサバイバルスリラー。

 監督・脚本は“音を立てたら即死”の設定で、世界的大ヒットを記録したサバイバルホラー『クワイエット・プレイス』(18)の脚本・原案を手掛けたスコット・ベックとブライアン・ウッズ。

 製作は“この家から脱出したければ、息をするな”のショッキングスリラー『ドント・ブリーズ』(16)を製作し、ホラー映画の金字塔『死霊のはらわた』(81)や「スパイダーマン」シリーズ、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(22)を監督したサム・ライミ。

 恐竜をはじめ、特撮は結構すごいのだが、いい意味でのB級SF感が漂う。過去の地球に迷い込んだ“時間SF”なので、『猿の惑星』(68)のような複雑な話になるのかと思いきや、小難しい状況の説明などは一切せず、ミルズとコアが極限状態で行うサバイバルの様子をひたすら見せたところは、あっぱれといいたい。

(田中雄二)