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「どうする家康」第28回「本能寺の変」 強さの中に孤独感際立つ織田信長の最期【大河ドラマコラム】

 一方的で不器用な愛情表現しかできない孤独な男。それが、“天下人”という仮面の下に隠れた信長の素顔だったように思えてくる。そんな信長だからこそ、最後の願いはかなうことなく、明智光秀(酒向芳)に討ち取られることになった。この時、家康と出会えなかった信長の心に浮かんだ孤独感はどれほどだろうか。おそらく、家康に裏切られたと感じたのではないだろうか。

 ところで、「孤独」と聞いて思い出されるのが、「麒麟がくる」(20~21)で染谷将太が演じた織田信長だ。だが、「麒麟」の信長と比べても、本作の信長は遥かに孤独感が深い。「麒麟」の信長には、関係が良好だったとはいえないが、両親や弟、妻など、感情をぶつける家族がいた。だが、本作に登場した信長の家族といえば、信秀と市くらいしかいない。

 また、「麒麟」の信長は、本能寺の変で攻めてきたのが心を通わせた明智光秀だと知ると、「十兵衛(=光秀)か。…であれば、ぜひもなし」と満足そうに笑みを浮かべ、散っていった。願っていた家康と巡り会えなかった本作の信長の方が、より哀れで孤独感が深い。

 天下人としての強さを見せれば見せるほど、孤独感が際立つ。これが、本作における織田信長だったといえるのではないだろうか。それが、岡田准一と松本潤という2人の役者の関係性、そして主人公・家康との関係性が生んだものであることは言うまでもない。そんな信長の死がこれからの家康にどんな変化をもたらすのか。その行方を見守っていきたい。

(井上健一)

「どうする家康」(C)NHK