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「舞いあがれ!」いよいよスタート!「ヒロインの舞が、みんなと一緒に一歩一歩進んでいく物語」 熊野律時(制作統括)【「舞いあがれ!」インタビュー】

 10月3日から放送スタートとなるNHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」。ものづくりの町・東⼤阪市の町⼯場で⽣まれ育ったヒロインの岩倉舞が飛行機に憧れ、空への夢をかなえようとする物語だ。放送に先立ち、制作統括を務める熊野律時氏が作品の見どころを語ってくれた。

(C)NHK

-「舞いあがれ!」はどんなドラマでしょうか。

 このドラマは、「向かい風を受けてこそ飛行機は空高く飛べる!」というキャッチコピーを掲げ、さまざまな困難の中、下を向くことなく、空を見上げて進んでいくヒロイン、岩倉舞の成長物語です。日々いろんなことが起きる中、つらくしんどいこともありますが、それを受け止め、前に進むポジティブな力に変えていけるような生き方を、ヒロインの岩倉舞を通じて皆さんに伝えていけたらと思っています。

-ヒロインの岩倉舞について教えてください。

 ヒロイン像については、脚本家の桑原亮子さんと話し合い、一人で頑張るのではなく、いろんな人とつながり、手を携えて空高く上がっていくイメージを大事にしようということになりました。舞は、周囲の人の気持ちを敏感に感じ取り、自分を主張することが苦手だったり、真ん中に立つことが苦手だったり、いろんな事情や生きづらさを抱えている人に目を向けることができる人です。もちろん、そういう部分は舞自身にもあります。だから、その人たちが何を思い、何を感じているのかを受け止めながら、「この人も一緒にできることは何だろう?」と、それぞれの個性や能力を見つめ、向き合い、緩やかにつながって一緒に困難を乗り越えていく。それを「空を飛ぶ」ということに象徴させながら、前に進んでいくヒロインでありたいと思っています。

-舞を演じる福原遥さんの印象は?

 福原さんは、舞のキャラクターにぴったりです。自分が先頭に立って現場を引っ張るというより、福原さんを中心に暖かな日だまりができ、そこにみんなが集まって、ニコニコおしゃべりをしながらお茶を飲んでいる…。そんな空気感があります。何となく人が集まってきて、和やかにおしゃべりをしているのが、ふと気が付くと本番になっている…。そういう雰囲気の撮影現場になっているのは、福原さんならではの魅力だと思います。それがきちんと映像にも表れているので、この作品が目指すヒロイン像をきちんと体現していただけていると思います。

-ヒロインの舞と、「空を飛ぶ」というモチーフを結び付けるアイデアは、どこから?

 最初にヒロイン像について話し合ったとき、飛行機好きの桑原さんから、毎朝ご覧いただくドラマのヒロインとして、「空を見上げる」、「空に向かっていく」というイメージが、今の時代に前向きな希望を感じさせるメッセージになるのでは、というお話がありました。さらに、コロナ禍で海外との往来も難しくなる中、今まで当たり前に思っていた「空を飛んで、行きたいところへ行ける」ことが、実はすごく貴重なことであることにも気付かされました。それをもう一度見つめ直してみるのも、大事なことではないかと。

 その上で、脚本を作るために取材して改めて気付いたのは、飛行機を飛ばすのは、実は危険と隣り合わせの大変なことなんですよね。人間が空を飛べるようになったのは、ここ100年ぐらいのことで、ずっと昔から「空を飛びたい」と願ってきたことがようやく実現し、今では普通になっている。つまり、それぐらい大変なことでも、頑張れば実現できるんだと。そういうことも、空に向かっていく舞の姿を通して、力強いメッセージとして伝えられるのではないかと考えました。

-舞が生まれ育った町として、東大阪市を舞台に選んだ理由を教えてください。

 飛行機というモチーフが決まった後、舞台を関西のどこにするかを検討する中で、ヒロインの両親が何をしているのか考えました。その際、桑原さんから「鉄の塊である飛行機が空を飛ぶのは、無数の部品と技術の結晶が空を飛んでいるということなんですよね」というお話がありました。おびただしい数の部品と、その向こうにあるおびただしい数の職人や技術の結晶体。飛行機をそんなふうにイメージしたとき、そういうものづくりをしている人たちが、ヒロインの根っこにあるのは、すてきなことではないかと。

 そこから、必ずしも航空機の部品を多く作っているわけではありませんが、ものづくりの盛んな町といえば、大阪なら“中小企業の町工場密度日本一”と言われる東大阪市だろうと。製造業は時代の影響を大きく受けながら、いい時期も大変な時期も経験してきましたが、大変な時期をいかに生き抜き、先へ進んでいくのか。そういう“挫折と再生の物語”という意味も含め、ヒロインのバックグラウンドとして“ものづくりの町”東大阪市を舞台にすることに意味があると考えました。

-舞の祖母が暮らすもう一つの舞台として、長崎の五島列島を選んだ理由は?

 東大阪を舞台にすることが決まった後、もう一つの舞台は離れた場所がいいだろうということで、いろんな島を検討する中で、五島にたどり着きました。まず、小さな島が150以上もあり、東大阪市とは対照的な場所であること。そしてもう一つ、五島を選んだ大きな理由が、“ばらもんだこ”の存在です。五島には、子どもの健やかな成長を願い、ばらもんだこを上げる風習があります。それを知ったとき、向かい風を受けないと空に上がることができないたこは、このドラマのテーマとも一致し、ヒロインの健やかな成長を象徴する存在になるのではないかと考えました。

-それでは最後に、視聴者へのメッセージを。

 桑原さんがよく「舞ちゃんは常に後方確認をしていく人」とおっしゃっています。空に上がっていこうとする舞自身の希望に満ちた前向きな姿。それと同時に、舞が1人で進んでいくのではなく、横や後ろの人をきちんと見て、「みんな一緒に来ているかな?」と気を配りながら、みんなで一歩一歩進んでいく。そんな物語を作っていけたらと思っています。ぜひ皆さん、舞の成長を見守り、応援していただけたら幸いです。

(取材・文/井上健一)