OpenAI 社が開発したChatGPTをはじめとする生成AIの登場は、さまざまな分野で衝撃を与え、波紋を呼び、社会を変えようとしている。家電メーカーのハイセンス(ハイセンスジャパン・川崎市)は、業界の中でいち早くその革新的な技術を接客に取り入れ、業界初の「AI接客アドバイザー」を導入することを発表した。
ハイセンスの「AI接客アドバイザー」は、OpenAIプラットフォームの技術を用いて、ハイセンスが独自にカスタマイズしたサービス。このサービスは生成AIを活用し、商品知識や専門用語を個別に学習し、テレビに関する一般的な質問はもちろん、ハイセンスのテレビに関する質問に素早く適切な回答を提供する。つまり、ハイセンス製品の個別の特長説明やシリーズ別の比較を容易に行うことができる。
具体的には、タブレットやスマホの画面上で、テキストまたは音声対話でコミュニケーションをとるというスタイルで、要するに若い女性のアバターを与えられたチャットボットである。といっても、従来のテンプレート型チャットボットのように紋切り型の答えばかりが返ってくるわけではなく、超真面目な理系女子に技術的な説明を受けていると妄想できる程度には自然な会話が可能になっている。ちなみにこの美しい女性にはマキさんという名前もあるそうだが、もちろん実在の人物ではなく、AIが生成した画像が使われている。
「AI接客アドバイザー」へのアクセスは、一部店舗の店頭に備え付けられたタブレットで、あるいは手持ちのスマホで店頭にあるQRコードをスキャンすることで可能になる。ただし、スマホの場合、Android端末ではテキストチャットまたはAIアドバイザーとの音声チャットが可能だが、iOS端末ではテキストチャットのみの利用になるという。
「AI接客アドバイザー」導入の背景としてハイセンスが挙げるのが、購買客と販売員の両方にメリットがあることだ。まず、客の側のメリットとは、1. いつでも気軽に質問できる。2.商品知識や専門用語に関する疑問にも迅速かつ適切に回答を得られる。3. ハイセンス商品の特徴やシリーズ別の比較を容易に行うことができる。4. 店員に直接尋ねるまでもないことでも時間を気にせずに情報収集できる。5.購入前に必要な情報を十分に得られるためより納得した買い物ができる・・・などだ。
一方、販売員のメリットとしては、1.お客さんとのコミュニケーションのきっかけを作りやすくなる。2.商品知識に関する質問に答える時間を削減することで、より多くの時間を接客に充てることができる。3.新商品のシリーズ比較など、複雑な情報を分かりやすく説明することができる。4.お客さんの購買意欲を高め、売上向上に貢献できる・・・などが考えられるだろう。
ハイセンスの山本一人副社長は、「この『AI接客アドバイザー』を5月17日から全国の大型家電販売店約100店舗でスタートし、将来的には500店舗、1000店舗と拡大し、さらに白物家電にも応用する予定です」とセルアウト(店頭実売向上)戦略を語る。試験運用がスタートする前日の5月16日、実施店舗の一つ、東京のビックカメラ有楽町店にお邪魔し、「AI接客アドバイザー」が店頭にどのようにお目見えするのか見せていただいた。
テレビ売り場の、ハイセンスの大画面テレビがずらっと並ぶコーナーの中央に、大型の縦型POP があり、AIアドバイザーはそこにいた。会話の仕方は簡単で、備え付けてあるタブレットの画面の「質問を開始する」ボタンを押すだけだ。「スポーツ観戦にはどんなテレビがいいですか?」「量子ドットって何ですか?」「新製品の特長を教えて」などと話しかけると、少し早口でしっかり答えてくれる。もちろんNGの質問もあって、「●●●という製品は安くならない?」といった価格交渉や、他社製品との比較はやんわりとお断りしてくる。売り場に掲示されたQRコードを自分のスマホで読み取れば、自分のスマホで同様の接客を受けることも可能だ。
この業界初のサービスを販売店側はどう感じているのだろう。ビックカメラ広報の高田雅人係長に尋ねてみた。
「お客さまからのお叱りで一番多いのは、繁忙期に担当者が別のお客さまを接客中で、なかなか案内を受けられないというクレームです。そんな時に、商品はハイセンスのテレビに限られますが、このAIアドバイザーはお客様の困りごとを解決するツールとなり得る面白い取り組みだと思います。弊社は、入社時にテレビ担当ならずっとテレビを担当してもらうなどスペシャリストを養成しています。さらにビックカメラマイスターという制度を作って社内試験を実施したり、家電製品アドバイザーという資格を持つ者を売り場に配置したりと販売員の知識に自信を持っています。AIアドバイザーに期待する部分はありますが、頼るつもりはありません。ただ、お客様の関心を呼ぶ話題性はありますし、販売のサポート役として、便利なツールとして、そこは使い分けていきたいですね」
ハイセンスのテレビは近年、性能・機能の割に価格が抑えられていると評価が高い。同社は、5月中旬にU7N・U8N、6月上旬にU9Nという、4K液晶テレビの新製品を発売すると発表した。
さっそく、AIアドバイザーにそれらの特長を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「U7N、U8N、U9Nシリーズに共通する特長は、4K画質を大画面で楽しめること、高画質で注目すべき機能が充実していること、ゲームモードProによる低遅延で、ゲームプレイが快適であることです。シリーズごとに異なるサイズ展開や機能があるので、ご希望に合ったモデルを選ぶことができます」
次にU8Nシリーズの特長を聞いてみると・・・。
「U8Nシリーズは、MiniLEDと量子ドット技術を採用したセミハイエンド4K液晶テレビです。高コントラストと広色域の鮮明な映像を提供し、業界トップクラスのコストパフォーマンスを実現しています。さらに、ゲームモードProや外付けHDD、裏番組録画などの機能も備えております。VODプラットフォームには19社がプリインストールされており、ゲーム機能も充実しています。詳細なスペックや特長については、さらにお問い合わせいただければと思います」
ここから、専門用語の意味を尋ねたり、自分の知りたい部分を掘り下げていったりすると、会話はとりあえずどんどん進んでいくので、なかなか楽しい。まだこなれていない部分はあるが、どんどん学習させてアップデートができるのがこういうサービスの強み。1年後のマキさんの変貌ぶりに期待するという楽しみ方もありそうだ。もし、家電ショップの店頭でAIアドバイザーの表示を見かけたら、ぜひあなたも試してみてはいかがだろうか。