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東出昌大「役者業についての考え方がシンプルに」 キャリア10年でたどり着いた境地で見せた入魂の熱演 『とべない風船』【インタビュー】

-そういう東出さんをはじめ、宮川監督やスタッフの皆さんの熱意がにじみ出た映画だったと思います。ここで改めて伺いますが、10年という節目を迎え、役者業について今はどんな思いを持っていますか。

 これまで紆余(うよ)曲折がありましたが、役者は先が見えない仕事なので、いろいろ思い悩んでいてもしょうがないなと思って、最近は考え方がすごくシンプルになってきました。オファーがあれば全力で取り組みますが、なければないで仕方ないかなと。先日、野生動物に関するある記述を読んだら、野生界では「自分が食べること」、「人から食べられないこと」、「子孫を残すこと」の三つだけをシンプルにやっていると書いてあって、「なるほど」と納得したんです。相対的な評価や、他人の声を気にするのは人間だけだなと。そんなこともあって、「呼ばれれば絶対にいい芝居をする。だから、他人が何と言おうと、気にするのはやめよう」と。

-「呼ばれれば絶対にいい芝居をする」というのは?

 いい芝居をしなければ、次は呼ばれませんから。逆に言えば、呼ばれなくなったら、いい芝居ができなかったということで、役者の仕事が減って、僕が淘汰(とうた)されていくだけで。その代わり、毎日、「いい芝居って何だろう?」と考え続けています。あとは、呼ばれればできる限りの準備をして、現場に向き合う、役に向き合う、台本に向き合う…やれるだけのことをやる、という感じです。

-「全力で取り組めば、必ずいい芝居になる」ということでしょうか。

 そうですね。全力を出し切って、悪い芝居だったときは、この仕事が向いてなかったということなんだと思います。今後もいろいろお話は頂いていますが、ただひたすら、いただいた仕事に全力で取り組み、がむしゃらに食らいついて芝居していこうと思っています。

-なるほど。

 とはいえ、役者業は人生の一部であり、それに人生を支配されているかというと、そんなことはありません。最近、「半農半X」という考えがあることを知ったんです。「半分の農業」と「半分のX」。「X」は都市部での仕事で、「農」は農耕に限らず、山での狩猟採集なども含みます。僕は、半農の時間もしっかり生きているつもりですし、残り半分の「X」がたぶん役者なんだと思います。

-今回演じた漁師も一種の「農」に当たる役ですし、それが「俳優・東出昌大」の新しい武器になるかもしれませんね。

 そうかもしれませんが、僕には何とも言えません。ただ、この映画が僕なりに「精いっぱいやった」と胸を張って言える作品であることは間違いありません。

(取材・文・写真/井上健一)

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