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小出恵介「人を引き込む映画の魅力を改めて感じました」本格的主演復帰作は映画愛あふれる物語『銀平町シネマブルース』【インタビュー】

 時代遅れの小さな映画館を舞台に、くすぶる青年と映画好きの愛すべきばか者たちの奮闘を映画愛たっぷりに描いた『銀平町シネマブルース』が2月10日から公開となる。主人公・近藤猛を演じたのは、これが本格的な主演復帰作となる小出恵介。作品の魅力や撮影の舞台裏を聞いた。

小出恵介 (C)エンタメOVO

-本格的な主演復帰作とのことですが、オファーを受けたときの気持ちは?

 2021年の夏頃、お話を頂いたんですけど、ちょうど僕が復帰して初めて出演した連ドラの直後で、映画にも復帰したいと思っていたところだったので、非常にうれしかったです。ただ、その時点ではまだ脚本はなく、僕の主演で、映画を題材にした作品と決まっていたぐらいで。具体的なイメージとして挙がっていたのが、ハーベイ・カイテル主演の『スモーク』(95)やビム・ベンダース監督の『パリ、テキサス』(84)といった映画でした。「さすらいの男」の雰囲気や、「下町にたむろする人間たちの群像劇」といったイメージですね。その城定(秀夫)監督版みたいなものを想像して、面白そうだなと。

-小出さん自身も学生時代に映画を撮ったことがあるそうですが、当時の思い出が映画好きの近藤役に投影された部分もありましたか。

 僕が高校時代に8ミリで撮ったのは、短いミュージッククリップみたいな作品ですけど、演じている中で、意図せずそういう自分の記憶がフラッシュバックする部分はありました。しかも近藤は、一度挫折して映画の世界から離れていた過去があるわけですが、僕自身もそういう経験をしたので、そこは素直に、自分が学んだり、感じたりしたことを役に昇華できたらと思っていました。ただ、僕は役柄に対して自分を投影できる部分があれば、どんどん投影していきたいと思っているので、今回はそういう1ページが投影された気がします。

-近藤が世話になる映画館「銀平スカラ座」には支配人の梶原(吹越満)をはじめ、個性的な人物が集まってきます。それを演じる共演者の人たちも持ち味を発揮して、物語を盛り上げていますね。

 手だれの役者さんたちが多く、いろいろ芝居を提案される方もいれば、かなりキャラを作り込んでくる方もいらっしゃったり、本当に皆さんそれぞれでした。それを城定監督が見て、うまくバランスをとって調理する感じで。「まず芝居を見る」ということも含めて、非常に役者を尊重して、信頼してくれる監督だなと。

-城定秀夫監督は『アルプススタンドのはしの方』(20)や『夜、鳥たちが啼く』(22)などで近年注目を集めていますが、印象はいかがでしたか。

 ご本人はとても穏やかで優しい方ですけど、現場では判断が早く、迷いなく采配して、限られたスケジュールの中できちんと撮り収めるんですよね。皆さんがよくおっしゃるように、すご腕の職人のような方で、すごいなと。

-完成した映画を見た感想は?

 城定監督らしい味わいはかなり表現されていると思いました。「城定監督は長回しが多い」とは聞いていたんですけど、ワンシーンワンカットで撮って、他にスペアのカットもないのに、よくこうして作品になったなと。現場で無駄なカットは撮りませんし、テイクも重ねない。それでもつながってみると、妥協して撮った感じもなく、きちんと成立している。そこが本当に素晴らしいなと。改めて、城定監督のすごさを思い知りました。

-ハリウッドの巨匠クリント・イーストウッドを思わせる撮影スタイルですね。

 そうですね。撮り方のスタイルが、もはや巨匠のレベルですよね。

-この作品にあふれている映画愛についてはどんな印象を持ちましたか。

 そういう“映画愛”みたいなものは、言葉にしなくても漏れてくるものなんだなと思いました。今回、出演者も監督も、ものすごく映画好きな方が多かったんです。皆さん、現場でも映画の話をしていましたけど、中島(歩/売れない役者・渡辺役)さんや、日高(七海/映画館のアルバイトスタッフ・大崎役)さんは、僕ですら付いていけないぐらい濃い話をされていて。そんなふうに、全員からあふれてくる映画愛が作品に焼きついて、強く画に残った感じがします。

-そんな本作で一際印象に残るのが、撮影後に亡くなった映写技師・谷口役の渡辺裕之さんと小出さんが社交ダンスを踊るシーンです。

 今振り返ってみると、ちょっと不思議なシーンになったな…と。衣装合わせから現場まで、ことあるごとに渡辺さんが「小出くん、やろうか」と声を掛けてくださって、ずっと一緒に練習していたんです。本当に熱心で、すごく真面目に取り組んでいらっしゃったのが印象的でした。現場ではワンシーンワンカットで撮って、ものすごくたくさん回ったので、「目が回る」と大変そうでしたけど(笑)。

-ラストシーンでは同じダンスを近藤が1人で踊りますが、今見ると、渡辺さんを追悼しているようにも見えて…。

 本当ですよね。オマージュのようにも見えますし、鎮魂のレクイエムのようにも見えますし…。しかもあれはもともと台本になくて、監督が本番直前に思いついて「踊りましょう」と追加した部分だったんです。もちろん、そのときは渡辺さんもお元気でしたし。自分でも全く予想していなかったので、とても印象的なラストになりました。

-それは驚きです。まさに「映画の魔法」が発揮されたすてきなラストでした。では、本作を経験して、映画に対する思いに変化はありましたか。

 人を引き込む映画の魅力を改めて感じました。こうやって映画は人をとりこにしていくし、映画を軸に人生を構築していく人もたくさんいる。そういうメディアなんだなと。僕自身、俳優としては『パッチギ!』(04)という映画がスタートだったので、映画に対して、かなり見上げるような気持ちもありますし。

-本作の舞台となる「銀平スカラ座」同様に、今、小さな映画館は苦しい状況に置かれています。その点についてはどんな思いがありますか。

 一映画ファンとしては、ミニシアターが困窮している今の状況はつらいです。僕が力添えできることがあれば協力したいですし、そこにしかない魅力がもっと伝わるといいのかなと。この映画が、少しでもそういうことに役立ってくれたら本望です。それが一番のテーマですし、作品が最も昇華されることになると思いますから。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会