-最終的に映画はほろ苦い結末を迎えます。映画の宣伝文句に「不当逮捕から無罪を勝ち取った7年の道のり。」とあるように、ハッピーエンドを予想していたので意外でした。
「裁判に勝ってよかった」という気持ちはもちろんあります。ただそれ以前に、壇先生には「そもそも逮捕すべきではなかった」という、金子さんほどの技術者が7年も拘束されてしまったことへの憤りがあったと思うんです。7年あったら、どれだけ技術が進んでいたのかと。だから、「勝ってよかった」という終わり方にしなかったことは、僕自身もすごく納得できました。
-この映画を通じて“Winny事件”の見方が変わった部分はありますか。
劇中にも出てきますが、インターネット上で金子さんの逮捕を疑問視する意見があったことは僕も知っていました。ただそれは、あくまでも一部で、世間の大勢を占めるのは、やっぱりテレビなどマスコミの報道だったんです。一度“容疑者”と報道されてしまうと、どうしてもそういう目で見てしまうので、僕も「報道の方が正しいのかな」と何となく思っていましたから。でも実際は、金子さんが1人の人間、1人の素晴らしい技術者だったことを知ることができ、そういうイメージはガラッと変わりました。
-金子勇という人が、単なる事件の容疑者から1人の人間として浮かび上がってきたと?
そうですね。僕もIT技術にはすごく興味があるので、本当ならもっと新しい技術を開発していたであろう人が、この裁判で何年も拘束され、早くに亡くなってしまったことをとても残念に思いました。でも同時に、金子さんが時代を先取りした技術者だったと知ることができたのは、本当にうれしかったです。
(取材・文・写真/井上健一)