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「映画を見終わった後で、自分の愛する人ともっと話したい、つながりたいという気持ちになっていただけたら、本当にうれしいです」『マイ・エレメント』ピーター・ソーン監督【インタビュー】

「映画を見終わった後で、自分の愛する人ともっと話したい、つながりたいという気持ちになっていただけたら、本当にうれしいです」『マイ・エレメント』ピーター・ソーン監督【インタビュー】 画像1

 火、水、土、風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。家族のために火の街から出ることなく父の店を継ぐ夢に向かって頑張る火の女の子エンバーは、ある日、自分とは正反対で自由な心を持つ水の青年ウェイドと出会う。ディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』が8月4日から全国公開される。本作を監督したピーター・ソーンに映画に込めた思いを聞いた。

ピーター・ソーン監督

-日本には「水と油」という言葉もありますが、この映画では「火と水」とのユニークな関係が描かれていました。この発想はどこから生まれたのでしょうか。

 実は火と水というよりも、この映画は親と自分との関係が発端になっています。というのは、若い頃、僕はアメリカ育ちということもあり、韓国から移住してきた親とは結構ぶつかっていました。ところが、自分があるステージに立ったときに、観客席に両親がいて、彼らがどのぐらい年を重ねたのかとか、今まで自分たちのためにどんなに犠牲を払ってくれたのかといった感情が急に湧き上がってきて、壇上から感謝の言葉を述べました。実はそのことが、この映画のきっかけになっています。そこから、移民であることや、外国人であること。それから、好きになった人が、自分とは違う背景を持っていたらどうなるのかといったことに発展していきました。水に関しては、僕自身が韓国系ではない人と恋に落ちたときに、両親や家族から「韓国人でなければ…」という反応があったので、そこから出てきたものです。

-ピクサーアニメのパターンの一つに、最初は違和感がある異形のキャラクターが徐々になじんできて、いつの間にか感情移入させられてしまうというのがあります。この映画も、その一つだと思うのですが、主人公たちを異形の者とする意図は、どこにあったのでしょうか。

 すごい質問ありがとうございます。僕が子どもの頃は、アジア系の作品はほとんどなくて、自分とは違う人種の人たちが出てくる作品ばかりでした。なので、親たちには全く理解できないし、心が通じ合わないようなところがありました。でも、アニメは違いました。擬人化されているものも含めて、親も自分も理解できて、そのアニメ作品を通して通じ合うことができたり、絆を深めることができました。そうした普遍性みたいなものを、僕は子どもの頃からずっと求めていました。大人になってからは、メタファーを見つけることが面白いと思うようになりました。おっしゃるように、大事なのは共感できるのか、感情移入できるのかということです。そう考えると、アニメは人生のいろいろなことを象徴表現することができるし、同時に爆発的な存在にもなり得る。そういう存在にわれわれ人間は果たして感情的につながることができるのか。今回はそんなふうに考えながらスタートしました。

-この映画は、これまでのピクサー作品とは違い、エンバーとウェイドのラブストーリーが前面に出ていたと思います。何か意図するところがあったのでしょうか。

 もちろん意図的な部分もあって、交わることが不可能だと考えられている火と水という逆の存在同士が、それを超えられるのか、ミラクルは起きるのかというところが、この作品の原動力になっています。同時に、同じような体験をした人の話を取り入れて、私たちはどこに属しているのか、あるいは居場所はあるのかというテーマも掘り下げました。

-この映画は、色遣いが印象的でした。火や水を表現するのはなかなか難しかったと思いますが、色遣いについて特に気を使った部分はありましたか。

 感情表現という面では、とても重層的に色彩設計をした作品です。テーマの一つであるアイデンティティーという意味では、エンバーがその場所に属しているのか、いないのかが重要でした。ファイアタウンにいるときは、みんなと同じ赤に染まっていますが、外の世界に出たときは違う色彩になります。でも、ウェイドという存在を通して、赤と青が混ざり合って紫になり、最終的には、その二つが一つになったときに、とても強い紫になります。このように、エンバーの感情を色彩で表現するというのも重要な部分でした。

-この映画は、人種、移民、差異、親子、出会い、可能性など、いろいろな問題が内包されていると思いますが、監督自身が、一番観客に感じてもらいたい、見てもらいたいと思うのはどの部分でしょうか。

 やはり、共感力や思いやりというものが架け橋になって、誰かとつながるというところかなと思います。それは実際に自分が親に対して行ったことでもあります。それには、ちょっとした勇気が必要でしたが、そのちょっとした行動が、とても大きなものにつながっていくと分かったので、映画を見終わった観客が、例えば、久しぶりに家族と連絡を取ってみたり、誰かとより親しい関係でつながろうと思ってくれたら、本当にうれしいです。