-天野友二朗監督の演出はいかがでしたか。
このシーンはこう撮りたいという明確なイメージを持っていらっしゃるし、そのシーンの意図を丁寧に説明してくださいましたので、僕らとしては、ある種感情の設計図になるようなところがありました。「こうしてください」とか「ここはこんな表情で」みたいな演出を現場で受けるのではなく、「ここはつらいですね」みたいなところを読み合わせた上で撮影ができました。めちゃくちゃ欲しいカットが撮れたら、すごくニコニコしながら、「いや、よかったですね」と。自宅での家族のシーンはすごくカット数が多くて、シーン数も多いのに、どんどんと早いテンポで一気に撮っていました。乗ってくると、監督が“あの男”を見たんじゃないかと思うぐらいに熱が入って、その熱にほだされて、現場の士気もどんどんと上がっていくみたいな感じでした。
-順撮りではなかったとのことですが、役としてのメリハリの付け方というか、幸せだった時との切り替えを演じるのは大変でしたか。
大変な部分はありましたが、起きる出来事に対して素直に反応していくようにしました。目の前でつらそうにしている奥さんがいる、目の前で子どもが泣いていることに素直に反応していく。順撮りではない分、手探り感というのは確かにありましたけど、とにかく起きる出来事に素直に反応しようと思いました。また、役について半年間じっくりと考えていられるというのはとても充実した期間でした。ふとした時に脚本を読み返して、家族についてはこうなのかなと考えていけたので、僕の中ではすごく寄り添い続けられた役でした。いつもこんなふうに真摯(しんし)に作品と向き合い続けたいと思いました。年齢的にも奥さんがいて子どもがいてという役ができたことは、ある意味、転機になりました。
-完成作を見て、撮影時と印象は変わりましたか。
見たことがない作品だと思いました。 映像や音楽の使い方も和ではなく、ある種アジア的なノリもあるんですけど、でもやっぱりこれは日本だよなという印象もありました。また、映像のカラーリングでいえば、監督がこだわった色合いがこんなにも際立つんだという驚きがありました。伊豆大島のロケーションでは、自然への畏怖みたいなものを感じました。それがあるからこそ、人々は見えないものに巻き込まれていくみたいなテーマが見えました。
-これから映画を見る読者に向けて、一言お願いします。
恐怖を感じたいという人には、もちろん楽しんでいただけると思います。ただ、それだけではないドラマもありますし、恐らく今まで見たことがないエンターテインメントがここにあると思うので、いろんな楽しみ方ができると思います。考え過ぎずにも見られるし、考え込むこともできるという作品になっています。そこを楽しんでいただければと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)