-それはリアリティーというか、ある意味ドキュメンタリータッチを求めたのでしょうか。
そんなふうに見えるかもしれませんが、自分が考えていたのはリアリズムというよりも真実です。真実があって、その上でマジカルな状況や、ファンタスティックな要素と現実的な要素のバランスから出てくるものを追求しました。
-実物大の潜水艦を作ったということですが、映像自体にもあまりCGやVFXは使わず、ライブのように撮ったシーンが多かったのでしょうか。
手前に見えるものは全てリアルなものですが、戦闘場面はもちろん、本当に潜水艦を沈めることはできないので、そこはCGと合成させています。(フランシス・フォード・)コッポラが『地獄の黙示録』(79)を撮った頃から考えればだいぶ時間がたっていますから(笑)。
-ちょっと結末にも触れますが、劇中やエンドクレジットで料理名を羅列するところが印象的でした。
自分も共同脚本のサンドロ・ペロネージも、サッカーがすごく好きで、観戦用にリストを作ってそれを見ているといろいろと迷わなくても済んで落ち着くような気がするんです。この映画の料理のリストは平和への夢です。平和な時にはこれが食べられるという。そういうイメージなので、エンドクレジットでもずっとこれを流したわけです。
-「われわれは敵船は容赦なく沈めるが、人間は助けよう」というせりふもありましたが、この映画のテーマは、敵であっても救うという、ある意味、騎士道精神みたいなものでしょうか。
サルバトーレが特別なことをしたというよりも、彼は人間が本来すべきことをしただけです。むしろ遭難者を救わないことの方が人間の本質に反していると考えられるわけです。私がサルバトーレという人物を好きなのは、彼が特別なことをしたわけではなく、人間が本来すべきことをした英雄であるところです。それをしない人間こそが呪われるということです。なので、私たちが今考えるべきなのはそういうことではないかと思います。
-日本映画のイメージや影響を受けた監督は?
小津安二郎、黒澤明、溝口健二…。彼らは今も影響を与え続けていると思います。彼らが使っていた映画の言語、特にモラルについての物語には、自分もとても大きな影響を受けました。日本の映画は、モラルについての物語が結構多くて、世界の見方や世界とどのように関係を築いていくかということに関しての捉え方がとても魅力的だと思います。最近では『ドライブ・マイ・カー』(21)に感銘を受けました。
-最後に日本の観客に向けて一言お願いします。
登場人物が潜水していった時に感じたエモーションを観客にも味わってもらえればと思います。それが私の唯一の願いです。それと、日本からこの映画の新しい見方が生まれたら、それはとてもうれしいことだと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)