3人に1人ががんで亡くなるといわれているが、ペットにおいては、イヌの死因の約54%、ネコの約38%ががんによるという。がんは早期に発見できれば、人もペットも約9割は根治できるといわれるが、特に物言わぬペットのがんの早期発見は至難の技。しかも、人間の5~7倍の速さで進行するため、発見された時はすでに末期症状というケースは珍しくないという。これまで、ペットのがんマーカーによるがん検診というものは存在せず、がん検診をするとなると、全身麻酔によるCTやMRIの画像診断が必要となり、高額な検査費用と全身麻酔や被曝のリスクも考慮しなければならなかった。
そのような中、メディカル・アーク (東京農工大学 多摩小金井ベンチャーポート・東京都小金井市)が開発したのが、ペットのがん検査システム「リキッドバイオプシー~Cancer D-Ark Test~」。ほんのわずかな血液だけで、がん種の特定とそのステージまで、高い感度と特異度で検出することを可能にした。2022年11月からイヌ5がん種について検査事業をスタートし、その臨床精度を検証するための検証検査(バリデーション)も行ってきた。このほど、イヌを対象に、目標とする12がん種の血液による補助的な判定法を確立。1月11日の“ワンワンワンDAY”から検査事業(Cancer D-Ark Test)を正式にスタートすることを発表した。同社によると、世界初の革新的検査技術という。
この技術は、わずかな血液だけで人間のがん早期発見を実現したマイクロRNAの世界的権威、落谷孝広教授(東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門)のアカデミアから技術支援を受け、国内の獣医系大学と二次診療の動物施設の協力を得て、ペット向けに事業化した。技術が確立された後に国内の動物病院で検証検査を重ね、がん種にもよるが約90%以上の感度・特異度・精度を得ることができたという。
現在、イヌを対象に検出できるがん種は「肝細胞がん」「悪性リンパ腫」「肥満細胞腫」「口腔内メラノーマ」「尿路上皮がん」「血管肉腫」「骨肉腫」「扁平上皮がん」「鼻腔腺がん」「乳がん」「肛門嚢腺がん」「肺腺がん」の12種。
メディカル・アークは、これまで野村貿易(大阪市)・COREZON(東京)と業務提携し、日本国内で事業化と検証検査を進めてきた。さらに海外事業に高い実績を持つエースインターナショナルジャパン(東京)と業務提携し、2024年中にArk Testを中国・欧米などへ導入する世界戦略を進めていく予定だ。Ark Testを実施できる指定動物病院は2023年12月現在で全国518病院で、2024年度中には2000病院への拡大を目指している。
メディカル・アークはさらに、がんで「ある」か「ない」かの「がんリスク検査」の解析技術も確立し、2024年春には検査をスタートする予定という。「がんリスク検査」は、がんの種類を特定する通常検査と比べ、比較的安価な費用で検査が実施できることから、イヌのがん検診普及の起爆剤になると期待が寄せられている。
同社は、イヌの12がん種の検査事業が正式スタートする2024年を「伴侶動物(ペット)のがん撲滅元年」と位置付け、「家族同然のペットといつまでも健康で幸せに暮らしていけるよう、ペットの命を救うために、さらに研究開発とその事業化を進め、より多くのがん種の測定技術の確立と検査精度を継続的に高めていきたい」としている。