SDGs

職場を「働いていたい場所」に 個性活躍の実現に向け、役員・社員座談会 長谷工コーポレーション

座談会に参加した社員の皆さん

 男性が多いとされる建設業界だが、最近は女性も増えてきている。企業側が、女性社員らの働きやすい環境整備を着実に進めていることが背景にある。その1社がマンション建設大手の長谷工コーポレーションだ。

 同社は2023年、「ダイバーシティ(多様性)」と、それらの多様性を企業内で受け入れて、活用するプロセスである「インクルージョン(包摂)」のそれぞれの頭文字を取った、「D&I推進室」を立ち上げた。

 同社がD&I推進の先に実現したいのは、一人一人の社員の個性を輝かせながら活躍してもらい、結果として、職場を「働いていたい場所」にしたいということだ。

 推進室が発足し、1年超が経過。同社が掲げるD&Iの取り組み状況について、社内でサステナビリティ推進担当の吉村直子取締役執行役員、建設現場の施工管理職の吉澤さん、マンションの設計を手がける近藤さん、海外の都市開発部門で勤務する柏原さんが集まり、座談会形式で話し合った。進行役は人材開発部でD&Iを推進する掛橋さんが務めた。

吉村取締役執行役員

 

▽多様な人々が活躍できる環境

(掛橋)吉村さんからD&I推進室についてご説明いただけますか。

(吉村)長谷工グループは、「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する」という企業理念の実現に向け、住まいと暮らしに関するさまざまな事業を展開しています。私たちの事業を取り巻く社会課題は、時代とともに変化し続けています。

 特に企業に対するサステナビリティをめぐる課題は、とても幅が広いため、戦略的に優先順位を明確にして取り組みを進めることが重要だ、と考えています。

 当社では2023年5月、2回目となるマテリアリティ(重要課題)の見直しを行い、自社の重要課題として4点を定めました。一つ目が、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)や人材育成などの人的資本経営」、二つ目が「気候変動への対応」、三つ目が「人権の尊重」、四つ目が「サプライチェーン(供給網)マネジメント」で、各課題の取り組み方針、ガイドラインを策定しています。

 ダイバーシティ&インクルージョンを掲げた背景ですが、当社はこれまでグループ全社で女性が活躍できる環境づくりを進めてきました。女性が働きやすい建設作業所はどのような環境なのか、などについて課題を集めたり、女性社員同士が交流することで仕事の悩みを共有したりしながら改善を図ってきています。

 今回のD&I推進室の立ち上げは、企業として、これまでの女性活躍の取り組みをさらに進めるとともに、女性に限らず多様な人々が活躍できる環境を整えたい、という考えから実現しました。活動を推進するにあたり、長谷工グループ内では、「個性活躍」を統一のキーワードとしています。多くの社員が働きがいを持って、個性を発揮しながら、生き生きと活躍できる環境を目指しています。

進行役は人材開発部の掛橋さん

 

▽現場に女性用の部屋

(掛橋)私の部署でも、女性が活躍できる環境づくりを目指し、女性が働きやすい建設作業所という観点でさまざまな取り組みをしています。実際にマンションの建設現場で働いている吉澤さん、まずは、施工管理をやりたいと思ったきっかけや、この会社を選んだ理由を教えてください。

建設部門の吉澤さん

 

(吉澤)建築を勉強したくて、高校、大学と進学しました。中でも、住宅に興味があり、家を造ることに携わりたかったんです。家には、マンションや一軒家がありますが、施工管理者として建物が建つまでを近くで見ながら、技術力を身につけていきたい、と考えました。それで、マンション建設数が国内で一番多い、この会社を選びました。

(掛橋)当社の建設現場で働いている、職人さんも含めて、女性の数はどれくらいなのですか。

(吉澤)現場ごとに異なるので、一概には言えませんが、今の現場では、全体約300人のうち女性の職人さんが5人いて、現場には、女性が働きやすい環境づくりの一環として「なでしこルーム」という部屋があり、基本的に女性しか入ることができないスペースとなっています。

 身だしなみを整えるための鏡付き洗面所や、トイレ、食事をとる空間などがある場所で、女性の働きやすさにつながっていると思います。

(掛橋)今後のキャリアビジョンを教えてください。

(吉澤)実は最近、結婚しました。これからも現場で働きたいと考えていますが、将来的には産休、育休も視野に入ってきます。これまでも産休が明けて現場に復帰した先輩たちがいましたし、これからもそういったケースがどんどん増えていくと思います。ですので、自分も先輩たちの姿を参考に、今後も現場で働き続けたいです。

(掛橋)建設現場で働く女性社員も、産休、育休を取得し現場に戻ってくるというのが、最近、自然なことになってきたと思います。長谷工グループで施工管理職として働いている女性の人数は、2015年は10人にも満たなかったのですが、2023年末には、約60人までに増えています。

(吉村)吉澤さんが入社後、この人をお手本にしていこうという女性の先輩がいたと思いますが、どういった点が学びになりましたか。

(吉澤)お手本にしたのは、入社1年目に配属された現場で出会った、2歳上の施工管理職の先輩です。その先輩がどのように働いているのかを間近で見せてもらい、職人さんたちとの接し方や、現場をうまく回していく方法などを学ぶことができました。最初の現場で、女性の先輩が近くにいたのは心強かったです。

 私も今後入ってくる後輩の女性社員たちに、少しでも安心してもらえるような、そんな存在になれればと思います。

(吉村)それは心強い言葉です。女性社員が増えていく中で、男性社員の女性社員に対する見方も変化していくと考えます。将来的に現場では、性別や年齢などとは関係なく、技術者、職人さんという、一人一人がプロフェッショナルとして働いている光景が当たり前になるでしょう。

▽「一緒の時間を過ごす」ことが大切

(掛橋)次に、働きがいを持って生き生きと活躍できる職場という観点から、仕事と家庭の両立をどのように目指しているのか、などについて話していければと思います。

 近藤さんは設計部門で働き、とても忙しい中で、育児休業を取得されました。そもそも、育児休業の制度を知ったきっかけは、何だったのでしょうか。

設計部門の近藤さん

 

(近藤)育児休業の制度を知ったきっかけは、設計室の先輩が育児休暇を取っていたことです。できたら取得したいというよりは、子どもが生まれるという状況になったときにしっかりと考えて、妻とも相談して、取ることに決めました。

(掛橋)育児休業に入る際、担当されていた仕事の調整など事前準備はどんなことをしましたか。

(近藤)まず上司には、育児休業に入る半年前に1カ月間の育休を取りたいという話をしました。いろいろなプロジェクトに携わっているため、私が休む期間、どのようにそれらの案件を進めていくのかについて、上司と相談しながら決めました。あとは、一緒に仕事をさせていただいている、事業主の方、関係会社や現場の方などに、育児休業に入ることを伝え、私の後任について伝えたうえで業務の調整や引き継ぎを行いました。結果的に、取得にあたってハードルはなく、問題なく取れました。

(掛橋)1カ月の育児休業の中で、どんなことを感じましたか。

(近藤)育児休業を1カ月いただいて、その間、妻や子どもと一緒にいられる時間となり、それはとても私にとって貴重な時間になりました。

 育児休業中は、何より妻の負担、母親の大変さというのを常に痛感するばかりでした。ただ、家族が同じ空間、同じ時間を一緒に過ごすことが、とても大事なことだとあらためて感じました。

▽タイムマネジメントの工夫

(棚橋)育児休業を終えて、職場に復帰してから働き方は変わりましたか。

(近藤)復帰後も仕事量はあまり変わってはいませんが、会社にいる時間は減りました。なるべく家族といる時間を取りたいというように、自分の価値観が変わりました。子どもが生まれたことで、できる限り早く自宅に帰るように心がけて働いていますので、会社にいる時間、仕事に充てる時間は少し減りました。

(掛橋)育児休業を取得したことで近藤さんの価値観が変化したというのは、すてきなお話だと思います。人事担当者としても、育児休業の意義をあらためて感じました。ここで、長谷工グループの男性育児休業の取得率の推移についてお話します。取り組みを開始した2019年の男性の取得は全体でたったの4人でした。一方、2023年度は36人で、男性で対象の社員数の約36%まで上昇させることができました。会社としても、取得しやすい雰囲気をもっと醸成し、近藤さんのように、仕事と家庭とのバランスをうまくとりながら働く社員を増やしたいと考えています。

(吉村)近藤さんのお話を聞いて、とても印象的だったのが、ご自身のタイムマネジメント(時間管理)を、しっかりとされているということです。育児休業を取り、復帰後も仕事の量がほとんど変わっていないにもかかわらず、仕事の回し方をとても工夫されているように感じます。これから、近藤さんの後輩でも育児休業を取りたいという男性がもっと増えていくと思います。その人たちの中には、休みを取ったら仕事の方は大丈夫なのか、周りに迷惑かけるのではないか、などと心配する人もいるでしょう。

 ただ、そういう人たちに対しては、事前に周囲と調整をすることや、近藤さんのようにタイムマネジメントを工夫すれば大丈夫だ、というメッセージを強く伝えていきたいですね。子どもを育てることは、夫婦として共同でやることです。仕事か家庭かという二者択一ではなく、仕事も家庭もという考え方が大切です。会社として制度がしっかりとあり、その制度を社員が柔軟に使えるということを、これから後輩たちに伝えていってもらいたいです。

(近藤)子どもを保育園に預けて、妻も仕事に復帰しますので、これから少しずつ家族との生活リズムもまた変わってきます。環境が変わっても、仕事と家族との時間を両立する方法を模索していきたいと考えています。また、吉村さんが言われたように、仕事と家族とのよいバランスを目指した働き方などが、同僚や後輩の一つの参考になればいいと思っています。

▽自分が成長する機会に

(掛橋)座談会の冒頭で、吉村さんから「D&I推進室」の立ち上げと、D&I実現のためのキーワードとして「個性活躍」が挙げられました。その取り組みの具体例として、自らがチャレンジし、周りを巻き込んで課題を解決していく、そういう人材の育成に力を入れています。

 公募制の英語教育にチャレンジ、その後、海外事業部で活躍している柏原さんにお話を聞きたいと思います。英語教育にチャレンジしようと思ったきっかけは何だったのですか。

都市開発部門の柏原さん

 

(柏原)以前、英語教育の社内公募に関し社内メールが届いた際、これが学びの機会で自分の成長につながると考え応募しました。当社は元々、ビジネスカレッジなど会社側から「学びの機会」をいろいろと提供しており、これまでも積極的に活用して自己啓発に取り組んできました。私自身、留学経験もなく、どちらかというと英語も苦手で自信がなかったのですが、これを機に自らの世界を広げてみたいと思いました。

(掛橋)英語の勉強はどのくらいの期間行っていたのですか。

(柏原)入社5年目となる2019年の4月1日から2021年の3月末までの2年間と、2022年4月に海外事業部に配属されてから今年の7月までの約2年間、計約4年間の研修を受けました。

 研修時間は原則、毎日30分間です。ネイティブの講師の方とオンライン上などで会話するのですが、カリキュラムも多く用意されており、単に話すだけではなくて、目的を持ちながらさまざまなトピックスを選んで会話していく、そんなことを毎日やっていました。

(掛橋)研修を受けて、流ちょうに英語が話せるようになりましたか。

(柏原)まだまだです(笑)。ただ、毎日30分間という短い時間ですが、生の英語に触れることで、英語で話すことへの苦手意識のようなものはなくなったと思います。また、ネイティブ講師の方々との会話を通じて、異文化の交流につながっているとも思います。研修は英語力向上だけではなく、異文化への理解といった面も勉強ができたのではないでしょうか。

(掛橋)海外への赴任の予定はいつごろですか。意気込みを聞かせてください。

(柏原)アメリカのカリフォルニア州での駐在が決まっています。現在、ビザを取得申請中で、ビザが取れ次第、渡米予定です。当初、英語学習を始めたときは海外で働いてみたいだとか、海外で活躍したいみたいなどの漠然とした思いがありました。その思いが、英語を勉強するにつれて、当社はどんな海外事業を展開しているのか、そこで自分はなにができるのかなど、具体的な気持ちに変わってきました。英語のスキルはまだまだ未熟ですが、勉強を続けることで、日本と海外の架け橋になるような営業パーソンになりたいと考えています。海外事業は、今後、当社の収益の柱の一つとして位置づけられており、海外事業の発展に貢献できるよう全力で取り組んでいきます。

(掛橋)2017年ごろからスタートした公募制の英語教育ですが、これまで100人以上の方が受講をしています。長谷工グループ全体でこの研修制度を活用しチャレンジをしてもらい、周りはそれを応援する,そんな風土を今後も大切にしながら、個性活躍につなげていければと考えています。

(吉村)英語を学び始めて、最初はとても自信がなかったり不安だったりしたかと思いますが、一方で、徐々に語学力が身につき、自分がレベルアップを実感できたのではないでしょうか。

(柏原)学び始めたころは、講師が何を言っているのかまったく分かりませんでしたし、私も自分の思いをうまく伝えることができませんでした。ただ、毎日30分ですがいろいろな講師の方を予約でき、そこでのやり取りを通じて、少しずつですが、自分の思いを伝えることができるようになってきました。その変化は、自分の自信につながっていると思います。

▽困った社員がいれば手を差し伸べる

(掛橋)これまで、個性活躍をテーマに、吉澤さん、近藤さん、柏原さんの働き方を語っていただきました。吉村さん、3人の方の話を聞いて、感想を聞かせてください。

(吉村)みなさん、ご自分やパートナーとの働き方や生き方を、工夫をしながら取り組んでこられた姿を知り、心が動かされました。

 世界は一歩先の未来がどうなるかも分からない、不確実な時代になってきていますが、外的環境が変化しても、強い組織であり続け、事業継続性を維持し、発展させるためには多様であることが必須条件で、それが、当社が「多様性」を求める大きな背景です。一人一人が個性活躍できる、そんな会社にしていきたいですね。

 長谷工グループは、2030年3月期までに、「住まいと暮らしの創造企業グループ」における、さらなる飛躍を目指しています。その中で、サステナビリティ経営による持続的成長の確立を掲げています。当社としては、積極的に独自のサステナビリティの取り組みや、新たな価値創造、イノベーションを生み出すことにもチャレンジしていきます。

 現在、グループ全体で約8000人の社員がおります。社員は仲間、一緒に頑張っていこうというのが当社の社風です。また、社員が一丸となって、一つの目的に向かって力を合わせてまい進していく、当社に昔からある良さも大切にし、どれだけ時代が変わっても、時代の変化に柔軟に対応していけるような企業として、今後も事業活動を継続していきたいと思っています。

 どんなことにも前向きに、仕事に取り組んでいただける方に、また当社に関心を持っていただける方に、ぜひ入社を検討いただければ、と願っております。