ポーランドの首都ワルシャワに東欧随一ともいわれる素晴らしい美術館がある。その名もローマ教皇の名を冠したヨハネ・パウロ2世美術館である。
1981年に美術品の収集を始めた著名な化学者ズビグニェフ=ポルチェンスキと妻ヤニーナ。彼らのコレクションは、キリスト教の宗教画に始まり、次第に印象派や肖像画にまで及ぶようになる。およそ400点という膨大な美術作品は1986年、国と教会に寄付された。
ワルシャワ市は、1825年に建築家アントニオ・コラッツィが建て、第2次大戦後に再建された建物を展示場所として、寄付した。かつて証券取引所かつ国立銀行だった建物だ。
オールドマスターから印象派までの約450点に上る幅広いコレクションのうち、16世紀ルネサンスから18、19世紀のアカデミー絵画、ロマン主義に至るまで、400年間のヨーロッパ絵画61点が、福島県郡山市にやって来ることになった。
郡山市立美術館(福島県郡山市安原町字大谷地130-2)の開館30周年を記念して「ヨハネ・パウロ2世美術館展」が1月28日(土)から3月26日(日)まで開かれる。今回の主役は絵画のなかの女性たち。レンブラント、ヴァン・ダイク、ゴヤなど、時代を彩る巨匠たちがどのように女性を描き出したのか、それぞれのスタイルが楽しめる。
代表的な展示予定作品のなかにはルーカス・クラーナハ(子)の《聖母子》がある。
聖母マリアが幼い息子を優しく抱き、微笑んでいる様子が描かれている。無邪気な幼子キリストは、片手にブドウの房を持って、もう片方の手で今まさにその一粒を口に運ぼうとしている。キリスト教では、ブドウはキリストの最後の晩餐のブドウ酒に結びつけられ、転じてキリストの血を暗示した。聖母マリアの表情がどこか憂いを帯びているように見えるのは、やがて我が子に訪れる受難を思っているのだろうか。
また、レンブラント・ファン・レインの《襞襟を着けた女性の肖像》(1644年)も。
大振りな襞襟(ひだえり)をつけた女性が、黒い衣装を身にまとい、背景にすっかり溶け込んでいる。この華やかな衣装は16世紀から17世紀にかけてヨーロッパで広く流行したもので、モデルになったこの若い女性も、ある程度経済力のある身分の出身だと思われる。1640年代以降、レンブラントは強調された明暗の対比や大胆な筆致を特徴とする画風で人気を博したが、本作ではむしろ筆のタッチが見えず、背景もやや平板である。注文主の依頼に忠実に応えてスタイルを変えた可能性もある。
フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテスの《水を運ぶ女性》も見どころだ。
片手に水壺を抱き、もう片方の手にも水壺をぶら下げた、若い女性を描いた肖像。おそらく水の供給が普及していない時代に水運びを生業とした女性だろう。女性は脚を大きく開き、堂々とした振る舞いでこちらを見下ろしている。X線調査で分かったことだが、本描きの段階になって壺を下げる手を身体から少し離し、力の入っている様を強調することを目指したらしい。庶民階級の悠然とした姿を描いた本作には、市民の尊厳を賛美する意図が含まれていると思われ、近代絵画の黎明が感じられる。
「ヨハネ・パウロ2世美術館展」の開館時間は午前9時半から午後5時まで(入館は午後4時半まで)。休館日は毎週月曜日。観覧料は一般1,200円、高校・大学生・65才以上が800円。郡山市立美術館の連絡先は024-956-2200。