豊かな自然と独自の文化を持つことで知られるフランス北西部のブルターニュ。その地に魅せられた画家たちが描いた作品を通じ、同地の歴史や風景、風俗を幅広く紹介する展覧会「ブルターニュの光と風―画家たちを魅了したフランス<辺境の地>」が3月25日(土)から6月11日(日)まで開催される。
SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)では、ブルターニュに関する作品を多数所蔵するカンペール美術館の作品を中心に、45作家による約70点の油彩・版画・素描を通じて、フランス「辺境の地」ブルターニュの魅力が届けられる。
休館日は月曜日。開館時間は午前10時から午後6時まで(最終入場は午後5時半まで)。観覧料は一般1600円、大学生1100円、高校生以下無料。問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)。
同展は全3章から構成される。
◆「第1章 ブルターニュの風景―豊饒(ほうじょう)な海と大地」——ロマン主義の文学者たちが描き出したブルターニュは多くの画家を刺激した。多様な風景と、ブルトン語を話し、ケルトの伝統が色濃く残る風習のなかで生きる人々に対する関心の高まりは、やがてサロンにおけるブルターニュ絵画の流行へとつながっていった。
画家たちが最初に求めた風景は、激しい嵐の光景だった。古くから伝わる伝説や民間伝承は、ブルターニュの沿岸地域が常に海の脅威と隣り合わせにあったことを伝えており、サロンで活躍した画家たちは、厳しい自然と共に生きる人々の姿を、確かな描写力によって克明に描き出し、人気を博した。
他方、荒野、森、耕作地などが織りなす内陸部について、画家たちは荒涼とした大地を繰り返し描くことで、不毛な大地というブルターニュの典型的なイメージを作り上げていくことになる。素朴な生活を続ける人々の暮らしぶりや、「パルドン祭」に象徴される人々の信仰心のあつさも、魅力的な画題として繰り返し描かれた。
◆「第2章 ブルターニュに集う画家たち―印象派からナビ派へ」——ブルターニュのとりわけ大きな魅力は、果てしない海と空の広がりではないだろうか。持ち運び可能な画材を携えて各地を旅した風景画家たちの心を捉えた。港町で育ち、海を愛したウジェーヌ・ブーダンが素早く的確に描きとめた空の様子は、印象派に先駆けた自然描写となった。
ポール・ゴーギャンは、フランス国内の異邦といえるブルターニュへ赴き、1886年には小村ポン=タバンにたどり着く。同地に滞在していたエミール・ベルナールやポール・セリュジエらとの出会いは、太く明確な輪郭線と平坦な色面構成を特徴とする「クロワゾニスム」を作り上げ、彼ら「ポン=タバン派」の誕生によって、ブルターニュは近代絵画史上にその名を刻むこととなった。
ゴーギャンの教えをセリュジエがパリに持ち帰ったことは、ピエール・ボナールやモーリス・ドニらによる「ナビ派」誕生へとつながり、彼らは、心象的なイメージを重んじ色面と線で大胆に表現する手法をさらに展開することで、印象派に代わる新たな表現世界を作り上げていった。
◆「第3章 新たな眼差し―多様な表現の探求」——ゴーギャンが去った後のブルターニュで制作に励んだ画家たちは、さまざまな絵画表現を試みた。1870年代に誕生した印象派、ついで1880年代に登場した新印象派の様式を特徴づける明るい色彩と筆触はポン=タバン派の画家たちにおいても継承され、風景画の中でさらなる展開を見せた。
世紀末に台頭した「バンド・ノワール(黒い一団)」と呼ばれる一派は、ブルターニュを拠点とし、ギュスターブ・クールベやオランダ絵画からの影響のもと、暗たんたる風景を描いた。20世紀に入ると、フォービスムやキュビスムなど、さらに前衛的な絵画表現が展開され、それはブルターニュの画家たちとも無縁ではなく、民族衣装姿の女性など、ブルターニュの典型的なイメージが新たな様式で繰り返し描かれた。