大英博物館でロゼッタストーンを見た時の気持ちがよみがえるかもしれない。ヒエログリフやデモティックの不思議な形をのぞき込みながら、今や読める人がいなくなってしまった文字が描いていた文化は、読み解かなければ永遠に消えてしまうという事実。消滅の危機にひんしている世界の83種類の文字体系と、その文字が宿す物語、歴史、現在の状況を解説した『絶滅しそうな世界の文字』(ティム・ブルックス著、河出書房新社、税込み5390円)が発売された。
文字が一つなくなれば、何百年も書き継がれてきた聖典、文学、手紙、法律文書、知恵、アイデンティティー、そして共に生きた記憶、そのすべてが失われてしまう。ごく少数の宗派によってのみ使用される古代の中東の聖なる文字から、21世紀になって文化的伝統を存続させるために新しく考案されたアフリカの文字、ラクダに押される焼き印を元にしたスーダンの文字、女性同士の秘密の会話に使われた中国の辺境の文字まで、それぞれの文字が持つ文化を解説しながら、文字がたどってきたドラマを紹介する。文字を作った人々と、時には命がけでその文字を守ろうとした継承者たちの情熱に圧倒される一冊だ。










