時代小説の名手にして健啖家(けんたんか)でもあった池波正太郎が今年、生誕100年を迎える。それを記念してのイベントが目白押しで、日比谷図書文化館には代表作『鬼平犯科帳』や『剣客商売』ゆかりの深川や四谷の古地図が掲示されている。
食に関するエッセイのコーナーには、池波が行きつけだった飲食店の詳細な情報があり、ファンが池波ごひいきの店を訪れてみる際の参考になるだろう。
さらには、この2月に封切られた映画『仕掛人・藤枝梅安』に関連して、池波自筆の梅安宅の間取りのスケッチや、撮影セットの図面が展示されている。
日比谷図書文化館(東京都千代田区日比谷公園1-4:電話03-3502-3340)では著書や関連本も貸し出している。記念展示は2月19日(日)まで。入場無料。
池波が生まれた台東区の観光課は旅行会社「クラブツーリズム」(東京都新宿区)と組んで、池波や作品とゆかりがある地を巡る日帰りバスツアーを企画。
生誕の碑がある浅草の「待乳山聖天」、多くの作品に登場する今戸橋の跡地、『鬼平犯科帳』の主人公・長谷川平蔵がお参りした目黒不動尊(目黒区)などを訪れる。
バスツアー(C2936-900)は2月26日(日)、3月3日(金)、12日(日)に予定されている。税込み2万円、先着22名。電話による予約は03-5323-6940まで。
台東区立中央図書館にある「池波正太郎記念文庫」(東京都台東区西浅草3-25-16:電話03-5246-5915)では生誕100年記念として、池波が1983年にスケッチした神田ニコライ堂といった東京の風景の原画とともに、現在の様子を写真で紹介。3月15日(水)まで。
「池波正太郎記念文庫」は、池波家および多くの方々の協力を得て、業績や作品の世界を広く伝える目的で2001年に開設された。作品に関するさまざまな資料を所蔵し、書斎の復元や著作、自筆原稿、絵画などの一部を常時展示している。時代小説コーナーも設けられ、戦前の貴重本から現代の人気作品まで時代小説に関する資料を収集公開している。
台東区立中央図書館は『鬼平犯科帳』など5作品に登場する台東、墨田両区などの地を記した地図「まちあるきマップ」を作成し、図書館や観光案内所などで配布。さらには、地図で紹介されている16カ所に江戸時代の「高札(こうさつ)」を模した案内板を設置する。
「池波正太郎記念文庫」のある同図書館の開館時間は、月曜日から土曜日までが午前9時から午後8時、ただし日曜日・祝日は午後5時まで。休館日は毎月、第三木曜日(館内整理日・祝日にあたる場合はその翌日)、年末年始、特別整理期間。
さらには、池波の代表作の一つ『仕掛人・藤枝梅安』が42年ぶりに映画になった。池波が説くところの「善人も悪をなし、悪人も善を施す」を体現する藤枝梅安は鍼医者でありながら暗殺をカネで請け負う仕掛け人でもある。
今回は小説の最初のエピソードが映画化された。藤枝梅安を演じるのは豊川悦司。相棒の彦次郎を片岡愛之助が演じ、梅安が唯一心を許す女性おもん役には菅野美穂が配されている。また、高畑淳子、小林薫も脇を固める。監督は河毛俊作。2時間14分。2月3日(金)から全国公開されており、4月7日(金)からは第2部(1時間59分)が公開される。
2024年には『鬼平犯科帳』の新作映画も予定されている。
池波正太郎は1923(大正12)年、現在の東京都台東区浅草に生まれた。小学校を卒業後、家庭の事情から奉公に出る。ペンキ屋を経て、株の仲買店で過ごす。太平洋戦争開戦後は国民勤労訓練所に入って旋盤機械工として技術を習得する。岐阜に転勤し、旋盤工の教育係を務めた後に帰京。東京は下谷区役所に勤務する。区役所勤めをしながら戯曲を執筆。1948(昭和23)年、作家・長谷川伸を訪問し、師事することとなる。
1955(昭和30)年、都職員を退職し文筆業で食べていくことに。現代ものから徐々に歴史小説、時代小説に軸足を移していく。1960(昭和35)年に発表した『錯乱』で直木賞(上期)を受賞した。1967(昭和42)年に発表した『鬼平犯科帳』の第1作が大きな反響を呼ぶ。1969(昭和44)年にはテレビドラマ化される。
1972(昭和47)年には『剣客商売』を発表。同年、さらに『仕掛人・藤枝梅安』シリーズが始まる。その後、この作品もテレビドラマ化される。1977(昭和52)年、『鬼平犯科帳』、『剣客商売』、『仕掛人・藤枝梅安』を中心とした作家活動が評価されて第11回吉川英治文学賞を受賞。1988(昭和63)年、第36回菊池寛賞受賞。1990(平成2)年、逝去。67歳だった。勲三等瑞宝章受章。