1200年前に弘法大師・空海が開創した真言密教の聖地・高野山。標高800mの、この高野山に温泉があるのをご存じでしょうか? しかも歴史あるお寺の宿坊、そこに温泉があるのです。今回、20km余り続く、古くからの巡礼の道「町石道」を歩いて高野山に登り、温泉に癒やされました。
温泉のある美しい宿坊「福智院」
まずはその宿坊。温泉がある「福智院」は、高野山の中心部・金剛峯寺のちょうど裏手。閑静な地区にあります。宿坊とは、お寺や神社などで僧侶や氏子、参拝客のための宿泊施設。ここでは宿泊者も朝のお勤めに参加し講話を聴くことができます。またヘルシーで美味な精進料理をいただくこともできます。
福智院の見どころのひとつが、お庭。とても美しい庭で落ち着きます。重森三玲(しげもり・みれい)さんという昭和を代表する作庭家の代表作のひとつだそうです。福智院には彼が最晩年に手掛けたという枯山水庭園“愛染庭”と“遊仙庭”、池泉庭園の“登仙庭”があります。素人目にも素晴らしいものだと感嘆しました。
福智院は金剛峯寺を中心に現存する117の塔頭寺院のひとつ。800年もの歴史を誇る格式ある寺院で宿坊も兼ねています。玄関も格式を感じさせ、広々とした建物に入ると厳かな空気に包まれていました。
とはいえ、客室は普通の温泉宿と全く変わりはありません。今回宿泊した部屋は10畳ほどの和室と、美しい庭が見下ろせる広縁のあるゆったりとした造り。もちろん冷暖房は完備、Wi-Fiも使えました。
さて温泉です。内湯とともにサウナと露天風呂もあります。内湯はこぢんまりしているかもしれません。泉質はアルカリ性単純泉で無色透明無臭。加熱はしていますが正真正銘の温泉で、世界遺産に登録された2004年に湧出したのだそうです。
そして露天風呂に出てみると浴槽が3つ。こちらは男性の露天風呂だそうで、大きな木の湯船、そして陶器で造られた一人用の湯船も2つあります。ゆったりのんびりと温泉を味わうことができました。
一方の女性の露天風呂といいますと、岩風呂になっているそうです。女性露天風呂のほうが雄々しくて、男性の露天風呂が優しい印象で、現代的かもしれません。
精進料理で体をいたわる
宿坊ですので、供される料理は肉を使わない精進料理。豆腐や野菜を現代風に上手にアレンジした料理が、とてもおなかにやさしいのです。
豆乳鍋もおいしくいただき、体の内側からきれいになってゆくような気がしました。翌朝もすっきりとした気分で起床して、朝の勤行にも参加させてもらいました。
ぜひ、高野山で温泉と精進料理を味わってみてください。そして高野山ならではの歴史と文化も体感してください。
高野山温泉 福智院
住所:和歌山県伊都郡高野町高野山657
電話:0736-56-2021
公式サイト:https://www.fukuchiin.com
全長20kmあまりの「町石道」を歩く
さて、標高800mあまりに位置する高野山。公共交通でのアクセスは、大阪からですと「南海なんば駅」から特急に乗り、1時間半ほどで高野山麓の「極楽寺駅」へ。そこから高野山ケーブルで「高野山駅」まで5分ほど。そしてバスで高野山市内まで10〜20分ほどで到着となります。また車では大阪市内から2時間、京都市内から3時間ほどで行くこともできます。
しかしはるか昔、参拝者たちは高野山まで歩いて登ったのです。その距離20kmあまり。その高野山への参詣道が今も残されています。「町石道」といい、今回はその道を歩いて登りました。
高野山参詣道は世界文化遺産に登録されています。1町(ちょう)=約109mごとに石柱が180基建てられていることから「町石道(ちょういしみち)」と呼ばれ、山上にある金剛峯寺の根本大塔に通じています。
スタート地点は、ふもとの九度山町。九度山駅を出て20分ほど歩くと慈尊院(じそんいん)があります。ここは空海の母・阿刀氏(伝承では玉依御前)が遠い讃岐の国から息子に会うためにやってきて宿泊していた寺院です。高野山は女人禁制のため、空海は母親に会うために(数が多いことの例えとして)月に9回高野山から下りてきたといい、そこから九度山と名付けられたそうです。
その慈尊院に隣接する丹生官省符神社(にうかんしょうぶじんじゃ)の石段に最初の町石がありました。下の写真がその一番目の町石。
石に「百八十町」と書いてあるのがわかりますか? 「百八十」からカウントダウンで数が少なくなっていきます。そうして町石を数えながら、ゆっくりと山道を歩いていきます。
距離は20kmですが、それほどの急坂でもなく、険しい山道でもありません。ちょっとしたハイキングで、半日で高野山にたどり着くことができます。
上の写真は「接待場」と呼ばれる地点です。かつて高野詣の参拝者には地元・教良寺区の村の有志が、握り飯や湯茶の接待をしていました。「接待場」には弘法大師空海の石像が今も残っており、この石像の後方数km先に高野山奥の院があり、この石像を拝むと「遠く御廟を望む」といわれています。
ところどころに参詣道らしい遺跡が残されていて、はるかな歴史を感じながら歩くことができます。
そして夕方には高野山の入り口にあたる「大門」に到着。
高さ25mあまり、朱塗りの「大門」は威風堂々とした構えで、現在のものは1705年に建てられたといいます。
「町石道」の終着点は、高野山の中心にある「根本大塔」。その最後の町石がようやく見えてきました。
ついに根本大塔に到着。大きな修行を終えた気分で、疲れも吹っ飛ぶようです。といいたいところでしたが、やはり疲れました。この後、早々にこの根本大塔からも近い宿坊・福智院にチェックイン。温泉で疲れを癒やしました。
高野山真言宗総本山 金剛峯寺
住所:和歌山県伊都郡高野町大字高野山132
電話:0736-56-2011
公式サイト:https://www.koyasan.or.jp
[All photos by Masato Abe]
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