TABIZINE10周年を記念して、ライターそれぞれが自由に綴る旅エッセイ。第6回目は、東京在住のkurisenchoさん。「私が「旅」をするきっかけになったのは、心身疲労しきったある夜、修行僧に背中を押された夢を見たことでした。「お前が行けば1001になる」と言われて、押された先は暗闇。お坊さんの謎の言葉と、不穏な行先が頭に残ったまま、ふと「1000体の千手観世音立像」で学んだ京都の寺院「三十三間堂」を思い浮かべました。……しかし、お坊さんははっきりと「1001」と言ったぞ……と不思議すぎて、なんとなく行くしかないと思い、夜行バスでそのまま京都へ向かったのです」
早朝の京都、到着したらそのままバスに乗って三十三間堂へ。約120メートルの長い本堂には、ご本尊の千手観音坐像を中央に、十一面千手千眼観世音菩薩や仏像が安置されています。すべて国宝で、今にもふわりと動き出しそうな仏様たち。息を飲む荘厳な光景にしばし時間を忘れていました。
さらに、ぐるりと裏手に回ると、ご本尊の真裏には1001体目の千手観音様が……。これぞ謎が解けた瞬間でした。開門したばかりの凛とした空気の中、救いを求める者を漏れなく救済してくださる千手観世音様に、確実に私の心も軽くなったのを覚えています。
(訪れたのは2012年でしたが、2018年には、東京・京都・奈良の国立博物館に寄託されていた観音様が本堂に還座され、まさに1,001体が26年ぶりにそろいました)
それからは、いろんな神社仏閣を参拝して、風景を撮影したり、ご当地ソフトクリームを食べたりと、私の「旅」がスタート。
極力下調べはしない。スマートフォンのカメラは使うが地図機能はオフにして、位置は道路標識や地元で配られている紙地図を見ながら、あっちこっちを巡るお散歩旅。
「光の射し方がいいからこの道がおもしろそう、おいしそうおやつがあるぞ」と勘に従って行く先は知らないことの連続!大きな道、路地裏、迷うことは勿論あります。そんな時は、とにかく人や車の多い方向へGo。地元の人気分で、日常の風景さえも眩しいものです。
ソフトクリーム、チョコ、パフェなどスイーツ好きの筆者。旅先で楽しむスイーツも旅の醍醐味! ご当地ならではのお土産やスイーツは事前にチェックしておきますが、その道中も宝の山。こんなお菓子があったんだ! というインターネットではヒットしなかった一期一会感があって、お菓子を通じて、国内の生産者さんの想いや、食材の素晴らしさを知ることができて、それもまた楽しいものです。
そして、もうひとつ。2011年の東日本大震災を経験し、明日は何が起きるかわからない、「今」を大切にしよう、と思えたのも「旅」のきっかけに。移ろう四季の風景も、大切な家族や友人も、当たり前の儚さこそ写真に残したい、という気持ちが芽生えました。
なかなか旅行ができない実家の父母に、各地のお菓子をお土産に、出会った仏様の話をしたり、各地の美しい風景写真を見せたりして、私はその喜ぶ姿が嬉しいものでした。
ネットで情報を得られるデジタル社会ですが、すぐに答えを出さず「あえて迷う」からこそ、自分に必要な事柄は不思議と訪れているようです。そして、実際に見て味わい確かめるアナログな体験で自分の感覚もリセット。
さて、次はどんな未知が呼んでくれるのか、ワクワクします!
[All photos by kurisencho]
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