映画やテレビでの活躍のみならず、市井の人々のわずかなしぐさや言葉を瞬間的に捉え、見る人の想像を膨らませる一人芝居の第一人者としても知られるイッセー尾形。フリーになってから10年の節目の年でもある2022年に、「イッセー尾形一人芝居 妄ソー劇場・すぺしゃるvol.4」を上演する。一人芝居に対する思い、さらには古希を迎えた心境などを聞いた。
-一人芝居に最初に興味を持ったのはいつ頃だったのですか。
29歳の頃です。それまでは仲間たちと一緒に芝居をやっていたのですが、1人去り、2人去り…それで、演出家1人、役者1人という状況になってしまったんですよ。なので、ウクレレを持って漫談のようなステージを行っていたんですが、これがちっとも面白くない(笑)。役者なんだから、役者として何かできないかと考えて、それで「バーテンの1日」というバーが始まる前から終わるまでの1晩を演じる芝居をしました。それが初めての一人芝居でした。
-新たに役者を入れて芝居をしようという方向にはいかなかったんですか。
そうですね。一人芝居というのは、その宿命として、この人をやったら次はこの人というように、いつまでたっても終わらないんです。しかも、同じ人間でもこの角度から見るとまた違う問題がある、こっちにはこの問題があるというように、どんどん深化していく。あまりにも(一人芝居は)奥が深過ぎて終わりが見えないから、誰かを入れるという発想はまるでなかったです。
-一人芝居の面白さとは?
一人芝居は、「この人はどうやって生きた」「この瞬間にどう打ちひしがれて、どうやってそこから立ち直った」というように、人を描いています。そこで湧き起こるバイタリティーが面白さになっていると思います。でも、だからこそ、誰を、どういう切り口で演じるのかという題材を決めるのが本当に難しい。しかも、これだけ長くやっていると、過去に似たようなことをやっていたりもするんです(笑)。ただ、今の自分が新鮮だと思っていることは、過去でやっていたとしても、今とは絶対に違うはずだと確信を持ってやるようにしています。
-そのネタは、どんなときに生まれてくるのですか。
なぜか水回りで思いつくことが多いです。お風呂に入っているときとか、歯を磨くときとか、トイレとか。あのかいわいはアイデアの宝庫です(笑)。きっとフッとスイッチが切り替わったときに、何かが流れ込んできてアイデアが生まれるんだと思います。その本当に小さなアイデアの核を書いて育てていきます。
-なるほど。では、12月に行われる公演はどのような内容になりますか。
フリーになってから10年分のセレクト版をお届けします。これまで演じた中でもドキドキしながらやったものを再演する予定です。僕が今回、一番心掛けているのは、自分が楽しんでやること。だって、1回お客さんが笑ってくれたネタですから(笑)。そういう安心感があるので、今までの公演とはまた違う空気になればいいなと思っています。
-今回、ロビーで作品の展示も行うと聞いています。
樹脂粘土で作った人形を展示する予定です。これまで、ゴッホや葛飾北斎やシェークスピアなどの人形を作る機会があったので、それらを集めてお見せしようと思っています。僕の分身のような存在なので、ぜひ楽しんでいただけるとうれしいです。
-1月14日、15日には10年ぶりとなる福岡での公演も予定されていますね。
博多はすごく思い出深い場所です。あの街はすごく不思議なところで、あれだけにぎやかなのに、舞台が始まる前の客席はどこよりもシーンとしているんです。なので、僕も「笑ってくれるのかな」と一瞬、本当に怖くなるんです。でも、実際にステージに立つと、思い切り沸いてくれる。その落差がすごく印象に残っています。ずっとお世話になっていたイムズホールがなくなってしまって、それからなかなかお伺いできなかった場所ですが、今回、10年ぶりに公演させていただきます。ぜひ10年前に私を見てくださっていた方たちと再会したいです。