超微細なナノ(ナノは10億分の1。1ナノメートルは100万分の1ミリ)の世界を可視化し、技術革新や新製品開発に役立てようという次世代放射光施設「ナノテラス」に関するオンラインセミナーが11月22日に開かれた。立地する仙台市が主催した「放射光で広がる未来のモノづくり~『共創』で輝く『光イノベーション都市・仙台』」。2024年の本格稼働に向け、関係者が施設の概要や活用方法、稼働への期待、既存施設の活用事例などについて語った。
発言の要旨は次の通り。
▼「ナノテラスを核としたサイエンスパーク構想」
私は大学の「プロボスト」という戦略企画の総括をしている。東北大は1907年に東京大、京都大に続き3番目の帝国大学として創立され、研究第一、門戸開放、実学尊重の三つの理念がある。企業、地域、世界の皆さんと課題解決をしていく新しいキャンパスを創造しようと動いている。
ナノテラスは、国の量子科学技術研究開発機構が代表機関、われわれは2018年にリサーチコンプレックスの形成と産学連携を、とパートナーに任命された。世界ではリサーチコンプレックスが急成長している。ナノテラスのポイントは、世界最高の光が来ることと、産業界に初めから出資をいただき大学も加わったコアリションを形成すること。この2点は世界に類がない。
青葉山新キャンパスは81万平方メートル、東京ドーム17個分の土地に、農学研究科、災害科学、環境科学、情報科学、半導体のセンターがある。産学連携の全てのファンクションを集約して企業を待っている。地下鉄の駅が真ん中。ナノテラスのそばに4万平方メートルの土地を用意しているのがサイエンスパークで、2棟建設中。企業、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、自治体、学術機関が入る場所を用意している。リサーチコンプレックスは地域全体で支え、全てのデータがここから出てつながっていく。こういったところが東北大の役割。
カーボンニュートラル時代のGXを牽引(けんいん)する場所となる。次世代は全てが画像あるいは立体画像になる。ナノテラスや持っている最先端の計測装置群で生まれる年間60ペタバイト(ペタは1000兆)級のデータを、皆さまと一緒に価値化したい。人材育成も含めて行いたい。
企業には研究開発のノウハウ、製品を生み出している現場がある。世界最先端の光で国際競争力のある可視化を行い、膨大な画像データを見いだす。それをAI等の分析でモデルにして、シミュレーションによってどういう機能に変えるとどうなるのか予測し、現場に戻す。ぐるっと回るような計測計算融合によるイノベーションサイクルの加速と、研究開発DX全体を手伝うサイエンスパーク事業法人を立ち上げる。
現在、企業を迎える仕組みを急ピッチで整えている。一点目は企業が主体となる研究所、活動拠点を「共創研究所」と名付けキャンパスに置けるようにした。責任者は企業の皆さん、支援者がわれわれ。大学の全組織にリーチできる。包括的な活動が可能なので、普通の共同研究とは違う教育や人材育成も相談しながら進められる。21年にスタートし、毎月1個ぐらいできていく。
もう一つは東北大にはものすごい研究開発設備がある。例えばクライオ電子顕微鏡、半導体領域では約450社が契約している8500平方メートルのクリーンルーム、約400万本の生体試料がある一般人のバイオバンクコホート、12ペタフロップスのスーパーコンピューター。開発も行っており、こういったものをリーチいただく。
事業投資を行うことや、スタートアップと連携し共同出資事業を立ち上げることもできる。東北大発ベンチャーは157社、国内未上場スタートアップでトップ20に2社入っている大学はほとんどない。ユニコーン企業は1社。ベンチャーキャピタルで2号ファンドを作っており、ディープテックが多い。IPOはライフ系3件。グリーンの領域も非常に多い。ぜひ連携を、共同出資も含めてお考えいただきたい。サイエンスパークの事業法人も立ち上げ、規制緩和をお願いしている。
大変革時代の課題解決を東北大とともにということで、コアリションメンバーに加入、出資していただき一緒にいろいろなことを考えていきたい。共創研究所は非常に便利。これまでの国立大学法人は高校生が入って社会人として巣立つ直線的な大学が多かったが、われわれは多彩なアクターが参加して価値を作っていくプラットフォーム。日本で一番先にやっていきたいので、一緒に課題解決をお願いしたい。
▼「リサーチコンプレックス形成に向けた取り組み」
ナノテラスを中核とするリサーチコンプレックスの形成で、産学官金パートナーシップにより、豊かな未来社会を実現する新産業の創造、および社会課題の解決につなげたいと考えている。具体的には、研究開発施設や企業の立地集積促進、企業の利活用促進に向けた普及啓発などを進めている。
仙台市のリサーチコンプレックスにおける要素は、中核となるナノテラス、市が推進している仙台都心再構築プロジェクト、東北大のサイエンスパーク構想の三つ。
ナノテラスは世界トップクラスの分解能を持ち、さまざまな分野で産業利用が期待されている。都心再構築プロジェクトは、働く場所、楽しむ場所として選ばれ、にぎわいと交流、持続的な経済活力が生み出されるまち作りを目指すプロジェクト。イノベーションが生まれる都市、まちを目指している。その一つとしてNTTグループが手がけるビルがあり、ナノテラスとの連携も計画されている。サイエンスパーク構想は社会価値共創の場として大学、企業ベンチャー、金融機関などから人材、技術、資金知識を結集し、新事業を創出、社会変革をもたらすことが期待されている。
仙台駅の周辺に都心再構築プロジェクトのエリアが指定され、東北大の複数あるキャンパスが都心部に所在。これらが直径約6キロ内に集約されており、リサーチコンプレックスの形成を推進したい。
仙台市はナノテラスの産業利用を積極的に支援したい。ナノテラスの一口5000万円の出資金を10口支出し、施設利用権2000時間を10年間取得している。利用権は立地企業、大学、公設試、地場企業に活用いただければと思い、配分スキームを作成中。
立地企業へのインセンティブの一つは仙台市立地促進助成金。拠点を設置する企業に全国トップクラスの助成制度を設けている。具体的には、新規投資に関わる固定資産税等相当額の複数年の交付、新規採用または異動の正社員1人につき最大100万円を交付している。国家戦略特区において高度人材ポイント制度に関わる特別加算を設けている。連絡をいただければ詳細に説明する。
ナノテラス利活用促進に向けた普及啓発の一つ目は、企業へのニーズ調査に活用促進に向けた訪問活動。二つ目として、施設の認知度向上、利用促進を目的としたオンラインセミナーを開催している。昨年度のセミナーはYouTubeで視聴できる。三つ目は測定事例創出のためのトライアルユース事業。多種多様な事例を創出し、それを基に普及啓発を行うことで、企業の利用検討を促す。企業にSp-8やあいちシンクロトロン光センター、九州シンクロトロン光研究センターなどで実験してもらっている。本年度末までに31件が創出される予定で、成果発表会やリーフレットで周知、仙台市ホームページにも事例が掲載されている。
連携協定では、東北大とは包括連携協定を締結し、分析会社とは放射光の産業利用促進に関する連携協定、NTTグループとは都心部の活性化に関する連携協定を締結している。
リサーチコンプレックス形成に向けた取り組みをさらに加速したい。今回紹介した以外にも支援制度を検討中で、多くの企業から意見をいただき、使い勝手の良い制度を作りたい。意見、考えをお聞かせいただければ。日本全国どこへでもうかがう。
▼主な質疑応答(敬称略)
Q ナノテラス稼働で一番期待することは?
A(赤羽) 地元が活気づくのが一番楽しみ。
A(赤塚) 機能を測れるのがナノテラス加入を決めたポイント。使ったお客さまがどう感じるか、肌をどう守れるのかといった観点で機能を追求したい。成果を占有できるのも大きなメリット。この2点でナノテラスを活用したい。
A(桝澤)今までの施設では見えなかったものが鮮明に見えるということと、スピード。同じ単位時間の中で多くのデータを蓄積でき、効果的な分析につながることに期待している。
A(田中)Sp-8でエビデンスは取れたが、消費者に伝わるような可視化が課題として残った。ナノテラスで可視化してエビデンスやデータの価値を伝えるという意味で、活用が広がると期待する。
Q コアリションに加入した場合、東北大の研究機器などを活用できるか?
A(青木) いろいろな活用方法を準備しており、あとはどういう契約でやるか。例えば大学の共同研究の契約とコアリションを組み合わせ両方活用するとか、Sp-8や大学のリソースを使って一緒に考えていく。契約の形態は企業の都合を聞きながらフレキシブルにやっているので、ご安心いただきたい。今までのように一対一の先生と企業の連携というより、全体として見るので、あのリソース、こっちのリソースと案内できる。
Q リサーチコンプレックスで希望する研究施設があるが、希望を聞いてもらう機会はあるか?
A(青木) ぜひ今すぐ。放射光の専門家が指導するのではなく、ニーズドリブンでいくことが非常に大事になっている。そこが分かると政府やいろいろなところに意見として出していけるので、何が何でもいただきたい。
Q 具体的な研究相談をする先生を紹介してもらえるか?
A(高田) 守秘義務もあるので、この先生に相談して良いかどうか企業に確認した上で紹介する。
先生にも理解してもらい情報管理する。できるだけサイエンスの先生ともマッチングしていく。単に放射光をやるのが目的ではなく、課題を共有する。大学の機関とのシステマティックな関係を持つことで、企業が持つコアな課題にまで踏み込んで、長期、短期含めて解決するシステムを作り上げようとしている。放射光のことを勉強せず、まず課題を持ち込んでほしい。
Q コアリションメンバーになる以外に使用方法はないのか?
A(高田) 今のところ地域パートナー側はコアリションメンバーにサービスを提供するという形。共用ビームラインはSp-8と同様、課題申請をして審査にパスすると使える仕組みがある。この場合は、情報公開が原則でリポートも書くという違いはある。企業のコアな課題に取り組むという点では、コアリションが非常に有用だ。
Q DX化で、顧客がデータ収集管理モデル式を組む形か、解析ソフトやデータベースなどの提供を想定しているか?
A(高田) データ解析やイメージを作るソフトは先生方が開発しているが、スタートアップや大学の専門家と分業することが強みになると考えている。海外で進んでいるリモート計測も、専門の先生の力を借りるのがベストな方法だと話している。委託計測も分析会社が担うような多様性のある使い方をDXで展開したい。
Q コアリションメンバーが得られる年間200時間の利用権を使う可能性を、どれぐらい見通して加入したか?
A(赤塚) 企業としては無駄なく使うのが優先。200時間を必ず使う実行計画を立て、スタートした時点ですぐに対応できるようにしたいと考えた。関東から2時間半から3時間で向かえるのは大きな利点と思い、200時間を有効に使う計画を立てている。
A(桝澤) 現時点では200時間の計画までは落とし込めていないが、やるものがたくさんあるので、実際に使って解析が進むようであれば次々と導入する。やりながら探っていきたい。
A(高田) Sp-8に19社が集まって運営をしているビームラインがあり、1年間で1社200時間使っている。使い切れないのでなく足りない。光が良くなって新しい使い方が生まれると別の使い方になってくる。むしろ足りなくなると危惧(きぐ)している。
Q 企業が放射光施設を利用する上で重要な条件、ポイントは?
A(田中) 何が測定したいか、何が見たいかという課題を持っておくこと。それに至るまでに、自分たちが社内や他で検討したデータも十分持っておくこと。それからマッチングに対して過度な期待をせず、トライ・アンド・エラーをしながらコミュニケーションを取り、課題解決を模索するモチベーションが重要と思う。弊社は放射光施設からかけ離れた事業領域だが、必要性が社内でも放射光施設でも説明ができれば、製品のプロダクトアウトまで到達することができる。一つずつステップを踏んでいくということと、自分がその領域の専門家でないから利用できないのではなく、これが知りたいのでどうやったらできるかという視点で臨むのがいい。各専門家とつながりサポートいただくことで、より良い成果が得られる。
A(赤羽) 1年後にはファーストビームが計画されているので、全く経験がない中小企業は、早めにお試しの窓口に行った方がいい。どうやら使えそうだと分かり、何を計りたいか課題をすっと探し、ある程度見えてきた。課題がありそれに対してゴールを設定することが大事だと、今日も勉強させてもらった。
Q リサーチコンプレックスの形成促進に、どう取り組むか?
A(高橋) 仙台市で確保している施設利用権を、いかに企業に積極的に活用してもらうかが一番重要。配分スキームを公表できる段になったら周知する。トライアルユース事業もしばらくは続ける方針。積極的に活用してほしい。さまざまな事例が創出できる可能性が多分にあるので、それを見てもらうのが一つと思う。