コオロギラーメンや昆虫を使ったコース料理を提供するレストランなど、年々広がりをみせる昆虫食。無印良品でも「コオロギせんべい」というスナックが人気商品の一つになっている。とはいえ、昆虫には少し抵抗があるという人も少なくはないだろう。もっとも、初めて触れる外国人にとっては、ネバネバする納豆や黒いノリは自国文化にない奇妙な食品に映る。身近になると、意外と食べられるようになる食べ物も多いのかもしれない。
家ではかなりの偏食だが、学校ではきちんと給食を食べるという話をたまに聞く。また学校給食は、家では普段食べない料理などを体験できる場にもなっている。徳島の県立小松島西高校で2022年11月、国内で初めて食用コオロギを使用した給食メニューの提供があった。
メニューを考案したのは、小松島西高校食物科の生徒たち。最初は、昆虫に少し抵抗があった生徒もいたが、今回使用した粉末の食用コオロギは食材として扱いやすく、多くの生徒が「おいしい」と感じたという。給食(希望制)で提供されたのは「グリラスかぼちゃコロッケ」。コロッケに一般的に使われるひき肉の代わりに、環境負荷の低い粉末コオロギ(グリラスパウダー)が使用された。飼育時のエサや使用する水の量が少なく、温室効果ガスの排出も少ない昆虫食だが、食材として利用するメリットもある。今回のかぼちゃコロッケでは、「コオロギを入れた方が(かぼちゃの)甘さが引き立つ」と食物科の生徒たちは話す。実際、約170人の在校生のうち、コオロギコロッケを試食した生徒は約9割にも及ぶ。同校では今月下旬に2回目の提供を実施後、給食でのコオロギの使用を継続するかどうかを検討する予定だ。
東京の都立葛飾ろう学校では今月、高等部専攻科食物系の調理実習で初めて昆虫食を扱った。コオロギの原料を提供したのは徳島大学発のベンチャー企業「グリラス」。タンパク質危機などの食料問題に加えて、同社がコオロギのエサとして100%食品ロスを活用している点にも関心を持つ生徒が多かったという。調理実習ではコオロギパウダー・コオロギエキス・乾燥コオロギの3種類のコオロギが使われ、小籠包・まぜそば・田作り・ふりかけ・ナッツのキャラメリゼの5メニューが作られた。
食料問題や環境の観点から注目される昆虫食だが、今回の調理実習のテーマは“コオロギの味を生かす”。初めて触れる食材を前に、生徒たちは何度も試作を重ねた。最初に作ったみそ汁やギョーザでは、エビなどの魚介系風味を持つコオロギの味を生かすことができなかった。最終メニューとなった小籠包も、餡(あん)にコオロギを入れた状態では全体の味のバランスが悪かった。最終的には、皮にもコオロギパウダーを加えてスパイス(ウーシャンフェン)を足すことで、本格的な中華の味にたどり着いた。初めて扱う食材だったからこそ、「おいしい、おいしくないだけではなく、どうしたらおいしくなるかを考えることができた」と専攻科1年の権田陽向さんは語る。
キャラメリゼと田作りには乾燥コオロギがそのまま使われているので見た目で昆虫食だと分かるが、そのほかの料理は言われなければ昆虫食だとは気づかないだろう。もっと身近な食材となれば、昆虫食のポテンシャルはさらに上がっていくだろう。