〝ものづくり日本〟を人材面で支える 顧客の困り事を解消できる会社に NISSOホールディングス・清水社長インタビュー

 ものづくり大国と称される日本は、製造業分野が国内総生産(GDP)、就労人口とともに約2割を占め、重要な基幹産業の一つといえる。ここ数年は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い、材料が調達できず、生産ラインが停止するという、サプライチェーン(供給網)の脆弱性が浮き彫りになった。ロシアによるウクライナ侵攻など緊迫する世界情勢を背景に、原材料高やエネルギーコストの高騰にも見舞われている。

 ものづくり日本を取り巻く環境が厳しさを増す中、製造業の現場への人材派遣などを手がけ、10月2日付で持ち株会社「NISSOホールディングス」(東証プライム市場:9332)を設立した清水竜一社長に、製造現場の現状や持ち株会社の狙いを聞いた。清水社長は「日本の製造業を人材面で支え、現場の困り事を解消できる会社にしたい」と強調した。

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インタビューに答える清水社長

 

▼人手不足が一番の課題

-政府の経済安全保障政策に沿った形で、国内での半導体製造工場の設立や計画が相次いでいるが、どのようにみていますか。

 「〝産業のコメ〟と言われる半導体の国内投資が活発化していることは大いに評価できます。ご存知のように、1990年ごろは、半導体で世界市場の約5割のシェアを占め、世界に冠たる日本という存在でしたが、それ以降は下降傾向となっています。多くの半導体メーカーが雇用調整に踏み切らざるを得なくなり、その結果、生産現場では量産するために必要な人材が足りないという現状を招きました。当時、メーカーは、雇用調整を大幅に進めましたので、本来であれば、現場の中堅どころとして今、戦力になるはずの方々が少なくなっているわけです。2026、27年に、半導体生産の国内量産が見込まれている中、どのように生産現場の人手を補っていくのか、これが半導体業界の大きな課題になります」

-人手不足は半導体業界だけではないですよね。

「少子高齢化の問題で悩んでいらっしゃるメーカーが段々と増加しているように感じます。たとえば、自動車の領域はとても裾野の広い産業ですから、下請け、孫請けは中小、零細企業が多い。ただ、自動車の部品の中には、その部品がないと車そのものが作れないという企業もあります。高い技術力があり、日本の自動車産業を支えている会社なのですが、若手社員の確保が難しいという。そのような会社で、第一線で仕事をしているのは社長さんなのです。その社長さんはもう70代後半になっておられる方も多いのですが、体が続く限り、現場に出ておられます。しかし、子どもに跡を継がせたくない、子どもが跡を継がないなどの理由から、そういった会社がこれから、どんどん廃業していくのではないか、と心配しています。原材料高、エネルギー価格高が製造現場にも深い影を落としていますが、一番の課題は後継者問題を含め人手不足に尽きるのではないか」

-人手不足はなぜ、おきるのですか。

 「冷静に考えたいのですが、人手不足だからといって、働く人が全くいない、というわけではないことを理解していただきたい。日本の製造業を取り巻く環境が劇的に変化する中、働きたいという人のスキルと、企業がその人に求めているスキルのミスマッチが起きているため、人手不足が発生しているとみているからです。新卒で入社し、終身雇用を前提として働く人々の市場を、『内部労働市場』と言われているのに対し、企業の外から人材面を支える、つまり人材派遣という形で働く人々の市場を、『外部労働市場』という言葉を使って、分けて考えてみたいと思います」

「『内部労働市場』の各種制度は評価できるところも多いのですが、時代の変化によってミスマッチが顕在化している、と感じています。人事制度に基づく賃金体系など、見方によっては、企業としての柔軟性がないといえるからです。人材面でも、企業内で長い時間をかけて育成していくケースが多く、変化に機敏に対応することが難しいでしょう。一方、我が社が対象としている『外部労働市場』では、その時代に求められる変化に合わせて、働く人たちのキャリアをつくり直しながら、お客様である企業に人材を提供しています」

-ミスマッチの解決策はあるのですか。

 「今の産業界のニーズに応えるには、企業側の求めるスキルと、働く人のスキルのミスマッチを解消しなければなりません。岸田文雄政権が労働政策の一つに「リスキリング(学び直し)」を掲げていることは評価できます。ただ、働く人の年齢、それまでの経歴などによって、リスキリングの方向感は異なってくると思います。ご存知のように、国内では、IT系のエンジニアが足りないとかなり前から言われています。その現状も変えなければいけないのですが、実は、昨今の技術革新の影響によって、人がやらなければいけない仕事の内容がどんどん変化しているのです」

 「最先端の半導体の工場に行くとよく分かりますが、昔と比べると人の数はどんどん減っている。人の役割を何が担っているかといいますと、ロボットです。あるいは最近では、人工知能(AI)を含めたソフトウェアが、装置が止まらないように監視をしています。ただ、まったく人がいらなくなったわけではない。ロボットや、ソフトウェアの不具合の発見、対応という、生産現場にある装置の『保全』要員が必ず求められています。保全をする方は、当然のことながら、装置の専門的な知識や、経験といったスキルが必要となってきます」

 「最先端の半導体工場でも、最後は「人」が求められるわけです。我が社は、自社内で専門的な知識を持った人材を育成し、大手メーカーなどの生産現場に監視、保全要員らを送っています。そういった業務は、メーカーの正社員が製造現場で経験を積んで学ぶ、スキルを上げていくというのが本筋なのでしょうが、先に述べた雇用調整により、企業内の人材数が圧倒的に少なくなっており、追いついていないのが現状です。我が社だけの対応では難しく、そういったことができるような会社をもっと作っていかないと、国内でもの作りができなくなってしまう危機感を持っています」

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熊本の研修施設 テクニカルセンター=NISSOホールディングス提供

 

▼低い短期離職率

-技術革新に沿った専門性を持つ派遣の人材育成が急務というわけですね

 「そうだと思います。今年4月、熊本県内に装置のモニターや、保全ができる人のキャリアアップを目指し、研修施設であるテクニカルセンターを開設しました。全国で9カ所目です。そこには、最先端の半導体製造装置を置いています。座学だけではなく、実際に装置を触りながら、分解、組み立てなどをするほか、消耗品を取り替える練習をするなど、専門知識の習得、装置に触れることで実践的なトレーニングをしています。その上で、お客様となるメーカー各社に人材をお送りするという仕組みを作っています。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県内に大型工場を立ち上げるなど、九州が半導体産業の一大集積地になってきており、その動きに迅速に対応をしています」

 「研修では、そのメーカーが実際に使っているソフトウェアを扱えることができるような仕組みを作ります。ですから、同業他社と同じように現場に配属されると、専門的な知識、実践的な体験が既に身についており、その職場での定着率が違います。同業他社と比べ、踏み込んだ研修を行い、即戦力がある人材を提供できることが我が社の強みといえます。このようなシステムは、約10年前から取り入れています。半導体メーカー、自動車メーカーにおいても、当社が派遣する社員は、同業他社と比べ、圧倒的に短期での離職率が低いのです。配属されて、2週間とか1カ月で辞めてしまう人は少なくありません。短期での離職率の低さは、我々の取り組みが間違っていないという裏付けになると思います」

-1971年創業で、製造業界向けの人材サービスのパイオニアを掲げています。

 「そもそも、私の父が造船の溶接技術者として働いていた経験から、若くして独立をして立ち上げた会社です。当時は、高度経済成長期で、国内各地で、産業プラント建設、自動車工場の建設など、現場で働く専門性を持った職人たちはとても忙しく仕事をしていました。創業者の父は、職人さんたちが忙しい時、そうでない時のマネジメントを行い、メーカー側の建設スケジュールの遅れなどといった困り事に対応をしてきました。メーカーの困り事をお聞きし、対応していく、これが我が社の原点です。今の言葉でいえば、ソリューションビジネスです。戦後経済の中で、日本の製造業は強いと言われてきましたが、その時代、時代によって顧客の困り事が変わってきますので、それに丁寧に対応していくことをミッションにしています」

-御社は、収益率が低いという指摘もありますが。

 「同業他社と比べ収益率が低いのではないか、と投資家にお叱りを受けることもありますが、顧客の困り事に寄り添い、自社で人材を育成し派遣するというビジネスモデルは、『勝ち筋』だと信じています。お客様の本当に困っていることを解消できる会社でなければ、生き残れないからです。ニーズを先取りすることが結果的に、企業としての成長の大きなエンジンになるだろうと考えます。足元の利益よりは、中長期的な利益を追求したいと考えています」

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未来化が進む自動車工場(イメージ)

 

▼自分への投資を

-持ち株会社を設立しましたが、狙いはなんでしょうか。

 「日本の産業界は、技術革新を中心に、その製造現場のオペレーションが大きく変化しています。コロナ禍でそのスピードがさらに上がったと思います。労働市場における、少子高齢化が進むことによる就業人口の減少傾向という課題にも直面しています。生産現場の変化、就業人口の変化、この二つの軸を考えながら、時代の変化に機敏に、柔軟に対応していこうとすると、会社として、足りない機能が見えてきたのです。持ち株会社をつくることで、時代の変化に対応できる企業を積極的に仲間として迎え入れていかなければ、今後の成長が期待できない、と考えたからです。持ち株会社の下に、いろいろなタイプの事業会社をぶら下げ、さまざまなニーズに対応できるソリューションビジネスを推進できればと思います」

-若い人にメッセージをお願いします。

 「生まれる時代は誰も選べません。たまたま、その時代で就職氷河期に遭遇することもあります。ただ、時代は選べないけれど、社会にはいろんなチャンスがあり、それを生かしながらキャリアアップしていくという可能性はいくらでもあることをお伝えしたい。自分自身が市場性の高い人材でいられ続けることを目指し、自分磨きや、自分に投資をするのが一番賢い投資だ、と思います」

 「先日の内定式で、『みなさんは将来、社長になりたいですか。なりたい人は手を挙げてください』と学生に問いかけました。すると、女性の内定者から数多くの手が挙がった印象を持ちました。ホールディングス傘下の事業会社で今後、さまざまな垣根を超えて社長に就任するケースは大いにあり得ます。傘下には、ベンチャー精神の感性がある会社も求められています。そのような会社をはじめ、グループ内の事業会社を異動しながら、キャリアを積んでいき、次のステップに果敢に進んでもらいたいですね」