今、九州が熱い! シリコンアイランドといわれる九州に、続々と半導体関連メーカーが集積しているからだ。米国では、カリフォルニア州のシリコンバレーが知られているが、九州地域も半導体材料として広く利用されているシリコンにちなみ、シリコンアイランドと呼ばれており、再興の兆しを見せている。
九州経済産業局によると、九州では約1千社が半導体関連のサプライチェーン(供給網)を構築しているという。同局は「九州を産業用先端半導体の世界拠点に」を掲げる。そんな中、熊本県の半導体関連の集積が進む同県菊陽町には半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が進出し、第1工場が今年10~12月に量産を始め、第2工場も年内に隣接地で建設を始める予定だ。総合人材サービスを手がけるNISSOホールディングス(東証プライム市場9332)のグループ会社、日総工産(清水竜一・代表取締役社長執行役員、横浜市)は、こうした半導体関連の製造現場の人材不足に対応するため、同県菊陽町の隣に位置する大津町に5月下旬、研修棟を増床した。
▼人材面からものづくりを支える
今回増床した施設は、昨年4月に開設した第1棟に隣接している。工費は約2億円、研修対応人数はこれまでの約3倍になる300人に拡大し、最先端の半導体製造装置を使いながら、日総工産の技術エンジニアを育成するだけにとどまらず、取引先の社員育成も担う。
落成式で、清水社長は「弊社は創業以来、『人を育て 人を生かす』という経営理念の下、製造業における受託業務派遣事業で、人材面から日本のものづくりを支えてきました」とした上で「半導体産業の基盤強化の源泉となるのは、やはり人材育成であると考えます。今回、テクニカルセンター熊本の機能拡張に伴い、熊本のみならず、周辺エリアを含めた半導体産業全般における人材育成を通じ、発展に貢献していきたい」と意気込みを語った。
続いて、熊本県商工労働部商工雇用創成局の佐﨑一晴局長が来賓としてあいさつ。佐﨑局長は「TSMCの第1工場が開所され、年末までに稼働開始する見込みと聞いております。これに伴い、県内の人材育成確保が喫緊の課題となっており、県としては、国や教育機関などと連携し、育成確保の取り組みを進めています」と話した。
佐﨑局長は、県立技術短期大学校が半導体技術科を今年4月に開設したことや、熊本大学では工学部内に半導体デバイス工学課程が設けられたほか、新たな学部として情報融合学環が創設されたことなどを紹介した。「今回、日総テクニカルセンター熊本が増床されたことにより、熊本県の半導体をはじめとする産業に向けた人材育成が大きく推進されることを心強く感じています」と述べ、教育研修の取り組みに大きな期待感を示した。
また、来賓として出席した、地元大津町の工藤あずさ副町長は「TSMCの進出をきっかけに、企業の進出、宅地、ホテルの開発の動きが加速するなど、大津町は数年前からは想像もできないほど、町全体に変化の波が来ています。そのような追い風が吹く一方で、交通渋滞や環境の問題のほか、多くの職種で人材不足がいわれております。そのような中、製造系人材サービス大手の御社が高度な教育プログラムを提供し、即戦力の人材を育成していただくことは、私どもの今後の半導体需要への人材確保の観点から非常に期待を寄せています」と、金田英樹町長のメッセージを代読した。
▼敷地内に宿泊施設
式典終了後、取材陣は第2棟内の施設を案内してもらった。研修用の半導体装置はまだ搬入されていなかったが、まずは「クリーンルーム」をガラス越しに見学。規模は、床面積約170平方メートルで、計4台の装置が設置されるという。また、座学を行う第2棟2階の教室では、機械の制御に使われているPLC(プログラマブルロジックコントロール)と呼ばれる制御装置のデモ研修の様子が披露された。
記者会見に応じた清水社長は、大津町の増設を決めたことについて「シリコンアイランドと呼ばれる九州の中にあって、(熊本県)大津町はとても良い場所に位置している」と語った。一方、半導体関連事業で、急速に発展している大津町では、宿泊施設が不足しており、「ここで研修を受ける人や、講師の方の滞在場所がとても少ないことに苦労しています」と指摘。このため、施設に隣接するかたちで10階建てのマンションを建設中であることを明らかにした。清水社長は「宿泊施設が完備できれば、安心して研修を受け入れられる環境が確保できます」と強調した。