女性にとって「肌の悩み」はさまざま。年齢により、季節により、暮らしている環境によっても異なるトラブル。ちまたに美容情報はあふれていても、なかなか自分に合うケアが見つからないという人は少なくない。中でもがんの闘病で、抗がん剤の副作用や手術の傷あとなどの悩みを抱える人にとっての肌ケアは、さらにデリケートな配慮を必要とする。治療経験があり肌に悩みのある女性のための「肌ケアセミナー」が3月20日、東京で開催された。「ほかでは分かち合えない気持ちを共有できた」「家で自分でできるケアが見つかってうれしい」と好評だ。
主催したのは第一三共ヘルスケア(東京)。2022年7月から、名古屋や大阪などですでに4回同様のセミナーを開催しており、今回が5回目。専門家の講義と、マッサージやカバーメイクなどの実践、座談会と3部構成で進行したセミナーだったが、質疑応答や情報共有なども活発に行われ、誰もが身を乗り出すようなあっという間の3時間になった。
講座を担当したのは3人の専門家。まず看護師の東島愛美氏(IQVIAサービシーズ ジャパン合同会社 CSMS事業本部 Clinical Educator)が、「がん治療中に起こりやすい皮膚症状と日常から取り入れたいスキンケア」について講義。皮膚の構造や抗がん剤の種類による症状の違いなどについて説明した後、弱酸性、アルコールフリー、泡タイプなどの洗浄剤で「なで洗い」をして清潔を保ち、保湿剤でバリア機能を考えたケアを続ける重要性を強調。肌そのもののケアはもちろん、肌に触れる衣類や靴の選び方などについてもアドバイスした。
「術後・抗がん剤治療中・後の悩み対策」について話したのは、外見の悩みについての対処に詳しいアピアランス・サポート東京、アピアランス・サポート相談室の村橋紀有子室長。医学的な手順に基づいた「巡活マッサージ」のやり方を詳しく説明した。静脈の流れに沿ってリンパを流すことで、むくみの原因になる老廃物などを流して血行を改善する方法だ。参加者は、クレンジングで簡単に化粧落としをした後、用意されたクリームをたっぷり塗りながら、手を動かして各自顔のマッサージを実践。大切なのは手の動かし方だけでなく、「クリームをたっぷり使って肌の摩擦を避けることと、力を入れ過ぎず優しく流すこと」と村橋さん。肌に摩擦があったり力を入れ過ぎたりするとかえってくすみの原因になることもあるという。
続いて「カバーメイクミニ講座」を担当したのは、アピアランスケア協会認定セラピストで、BEC乳がん体験者コーディネーターの野村奈美氏。病気によって損傷した外見や肌の悩みを上手にカバーする、いわゆる“アピアランスケア” の専門家だ。治療中にできたシミやくすみ、色素沈着や白斑(はん)などの悩みをメイクで自然にカバーするにはどうしたらいいのか、そのテクニックを実際にコンシーラーを手に、モデルの顔にメイクを施しながら説明。一言でコンシーラーといっても、ベースが固いものはカバー力がある代わり自然な仕上がりにするのに工夫がいるが、柔らかいものはカバー効果は多少減っても自然な感じにぼかしやすいなど、塗りたい部分や目的によって使い分ける知恵も伝授された。
講座の後は、実際にクリームやコンシーラーを使って“お化粧直しタイム”。そして少人数のグループに分かれての座談会へ。ニックネームの名札をつけた参加者たちが、それぞれの悩みや対処法、まだ解決に至らない症状への対処の努力などを語り合った。治療の過程で肌のトーンが暗くなったり、傷の治りやホルモン療法での悩み、抗がん剤で髪や爪に出る副作用への対処法など、それぞれのグループで共有された悩みについて、講師が一つずつ丁寧に回答した。
今回初めてセミナーに参加したという「花」さんは、以前から美容に関心はあり、プロのエステティシャンの施術などを受けていたが、「がんになってから精神的にも経済的にもエステに通うなどという余裕はなくなった」と話す。セミナーで実践したマッサージは、自宅のお風呂タイムなどでも続けられるもの。「元々むくみやすかったのが、がんになって余計にむくむようになり、自分でできるマッサージのやり方が分かってよかった」という。「めぐえもん」さんも初参加。「店で見ることはあっても、使い方がよく分からなかった」というコンシーラーのテクニックを習得。マッサージも、「肌にいいというだけではなく気持ちが上がる」とその二次的な効果も感じたようだ。
がん患者さんへの貢献を掲げる第一三共グループ、生活の中で身近なスキンケア製品も取り扱う第一三共ヘルスケアだからこそのセミナー。敏感肌の人の悩みを解決したいと弱酸性の石けんや低刺激のクリームなどを開発してきたが、抗がん剤が治療の一方で肌を攻撃してしまうという副作用を持つことから、患者の悩みに応えたいと始めたものだ。「がん関連の学会に出たり、サンプリングさせてもらったり、看護師さんに説明したりと、医療従事者とはつながりがあったが、肝心の患者さんとの接点がなかった。直接関わりをもって話を聞ければもっと役に立てるのでは」という思いが、このセミナーにつながった、と同社ブランド推進本部メディカルマーケティング担当の橋爪現氏。
実際、開催したセミナーで聞いた“生の声”は、新たな製品開発につながる可能性というだけでなく、「製品の使い勝手などについての利用者の声を知ることもできてありがたい」という。たとえばボディーソープ一つとっても、入院時にどういう形態のものが使いやすいか、など、実際に使う人の声を聞いて初めて分かることも多いからだ。
「患者さんとディスカッションできるようなセミナー」が理想。東京や大阪など、大都市で開催してきたセミナーだが、「闘病中で長い移動ができない人もおり、これからは日本の隅々までいってセミナーをやりたい」と意欲的だ。