宇宙観の大転換(天動説→地動説)に貢献したコペルニクス(1473~1543年)は思考の枠組みの大転換を指す「コペルニクス的転回」という言葉にその名を残すが、地動説の“先駆者”とされる古代ギリシャの天文学者アリスタルコス(前310~230ころ)の名はあまり知られていない。
映画『アレクサンドリア』には、そのアリスタルコスの名を女性数学者ヒュパティア(370ころ~415年)が口にする場面がある。映画は、思索と実験を重ねて地動説の確証に近づくヒュパティアの科学的探求心と思想の自由に殉じた哲学的生涯を魅力的に描いて圧巻だった。
ギリシャ数学史に名を残す最初の女性数学者といわれるヒュパティアは、いまでいう「理系女子」の偉大なモデルの一つになりうる存在かもしれない。
日本で理系女子の増大を目指す山田進太郎D&I財団(東京都港区)の調べによると、日本の2023年度の大学理学部・工学部(科学・技術・工学・数学=STEM分野)入学者の女性比率は19%で、OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の28%(21年時点)を下回っているという。
35年までにこの比率を日本でも28%に引き上げる目標を掲げる同財団は、女子中高生向けに実施するSTEM領域の職場・大学キャンパス体験ツアー「Girls Meet STEM」を実施し、「先輩理系女子」の働きぶりやキャンパスライフに触れてもらう機会を女子中高生のためにつくっている。
24年6月の同ツアー開始当初は女子中高生の見学を受け入れる企業は16社だったが、25年は112社に急拡大するなど、好評という。これまでにツアーに参加した女子中高生は全国で延べ2千人余り(25年3月末時点)に上る。
STEM人材確保の競争をしている企業側は、社内理系女子のロールモデルを示すことに前向きになっている。

例えば、メーカー機能を持つ半導体・ITシステムの技術商社として独自の発展を続ける東京エレクトロンデバイス(東京都渋谷区)は、理系出身の女子学生の多くが就活時に抱く、職場における「性別の壁」や女性技術職のキャリア(入社後の経歴)の描きにくさ、仕事と子育ての両立などの不安の解消を目的に、2人の理系女子社員の働き方をネットメディアなどで積極的に紹介している。
大学で電気・電子工学を専攻した07年入社の佐久間千尋さんは2児の子育てのためフレックスタイム制度を活用。子育てと仕事を両立させて法人顧客の大規模プロジェクトの一員として活躍している。女性の働き方に配慮する各種制度を心理的な負担なく気持ちよく使え、各制度が「絵に描いた餅」にはなっていない社風なども紹介する。
もう一人、大学で化学を専攻した22年入社の小方滋雪さんは現在、同社で製品提案や技術支援を担当。就活時は、大学の専攻とは異なる情報系の仕事に不安を覚えたが、社内研修が充実しており、情報系の技術的基礎をしっかり身に付けることができたという。また単なる技術サポートにとどまらない、製品開発(ものづくり)に関われる技術商社ならではのやりがいも指摘している。
理系女子が活躍できる働きやすい職場環境の形成は、これからの日本の経済、企業の成長力を占う試金石の一つと言えそうだ。