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地域全体がホテルに 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授  連載「よんななエコノミー」

 観光というとレジャーの一つと捉えられることが多いが、近年は地域課題解決の手段として利用するケースも増えてきた。

 その一つに空き家・古民家の利活用がある。少子化や過疎化に伴い空き家の数は増えており、2023年では過去最高の900万戸に及ぶという。放っておけば周辺の景観悪化や防災・治安上のリスクを招くが、観光で再利用すれば休眠資源が有効活用できるとともに集客と消費で地域活性化にもつながる。中でも築50年以上の古民家は、地域の歴史や文化を受け継ぐものが多く魅力的な観光資源の原石だ。

 しかし、これをホテルとして利用する場合、課題が生じる。一つは食事の問題で、元が民家であるがゆえに客室数が少なく旅館のような食事提供はできない。古民家が存在するような地域では周辺の飲食店も少ないため宿泊客が食事を取れない恐れがある。また、ホテル運営に必要なチェックインなどの管理業務を行うスタッフ費用も少ない室数ではペイしない。

 こうした課題を成功に導いた例として知られるのが、『NIPPONIA(ニッポニア)』のブランドで古民家ホテルを全国に展開するノオトが手掛けた兵庫県丹波篠山(たんばささやま)市のケースだ。ここは歴史ある城下町で武家屋敷や古い商家が残るものの、所有者の高齢化や経済負担から空き家も多くなっていた。15年、ノオトはこうした古民家を改修し4棟のホテルをオープンさせた。成功要因となったのは、古民家そのものの魅力はもちろんだが、同時に4棟を稼働させたこと、その際、フロントやレストランなどを域内の別の場所に設け共通で利用するようにしたことだ。つまり建物内にホテルを収めるのではなく、地域全体が一つのホテルと考え機能を点在させた。こうすることで少ない室数でもホテルの快適性を維持するとともに、域内には旅行者の回遊が生まれホテル以外にも経済効果が波及する。これは分散型ホテルとも呼ばれ、古民家活用による地域活性化の好事例となった。

 丹波篠山の古民家ホテルは現在7棟19室にまで増え人気のほどが分かるが、こうした分散型ホテルは他地域でも取り入れられ、JR東日本などは東京都奥多摩町で『沿線まるごとホテル』として展開を始めている。

 古民家をホテルにすれば旅行者が来るというわけではない。そこには人を楽しませ、快適性を保ちながらビジネスにするための知恵や工夫が必要だ。しかし、放っておけば朽ち果ててしまう空き家も、使い方次第で魅力的な観光資源として人を呼び込むことが期待される。観光が地域課題の解決手段として利用できる一例といえる。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.28からの転載】