8年ぶりの電子投票が昨年12月、大阪府四條畷(しじょうなわて)市で行われた。東修平(あずま・しゅうへい)市長(当時)は、「疑問票や無効票をゼロに。停滞していた電子投票を活性化できた」と話す。
市長選(候補者2人)と市議補選には、タブレットが導入され、開票に携わる職員は前回の3分の1の27人、開票作業は1時間40分だった。コストは4年前の2・7倍の4500万円だった。
一方で、東京新聞は1月下旬に「バリアフリー後退」として、投票所には視覚障がい者の音声対応がなかったことを指摘した。総務省は昨年、視覚障がい者のために端末の開発者に要望していた「音声機能の付加」項目を削除していた。
電子投票は2002年の特例法で、条例を制定すれば地方選で実施できるようになった。ただ、岐阜県可児市の市議選(03年)で投票所のサーバーがダウン、一時投票できなくなった事故(選挙無効)をはじめトラブルが続き、導入する自治体は広がらなかった。このため、専用端末の開発業者がいなくなり、総務省が指針を緩和することになったのだ。
四條畷市より前に電子投票を実施した10市町村のうち、9市町村は希望する人にはヘッドホンを貸し出し、読み上げた候補者から投票できた。音声機能がない場合は、投票所の担当者に投票先を伝える代理投票が可能だが、投票先が他者に知られてしまうと、投票を諦める人が多かった。だから総務省は「音声機能の付加」を当初から要望していたのである。
電子投票は投票所で行われるが、インターネット投票は自宅や海外など、どこからでもアクセス可能だ。世界最先端といわれるエストニアでは、05年にインターネット投票を導入したが、在外国民への投票機会の提供、という発想が背景にあった。
これまで国政・地方選挙など14回行われ、直近の23年の国会選挙では、投票者の51・1%がインターネットで投票した。ただ、若者の投票率は上がらず、高齢者の投票が増えているという。
「電子投票と日本の選挙ガバナンス」(21年)の著書がある東北大の河村和徳・准教授は言う。「これまでは開票時間の大幅な短縮や、投開票作業に関わる職員を削減できるなど『効率』が重視されてきたが、これからはお年寄りや障がい者ら『投票弱者』に選挙権を保障する視点を重視したい」
河村准教授は、日本の地方選挙の電子投票が途切れた後、11年に発生した東日本大震災の被災地を歩き、避難で故郷を離れた人たち(投票弱者)の選挙時などの救済を考えた時、電子投票の重要性を思い知ったという。
なお世界では、全面的なインターネット投票は実現していない。ハッキングなどのリスクを防ぐ方法などを研究しつつ、国民の理解を得ながら前進している状況だ。「日本では地方選挙限定でなく、国政選挙で使えるよう法改正を急ぐ必要がある」と河村氏は言う。
国内では、在外選挙でのインターネット投票の実証実験が20年に実施されたが、国政選挙への電子投票導入の動きはなお鈍い。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.8からの転載】