人口減少が進む中で、各地の自治体が移住・定住支援策に力を注ぐ。移住相談会の開催、支援金の支給、仕事や住まいのあっせんなど、手厚い取り組みを行う自治体も多い。
だが、こうした移住者への手厚い支援とは裏腹に、転勤などを理由に転入した人たちが、地域とつながるための仕組みや支援策はほとんどない。特に夫の転勤に伴って転入した主婦の中には、地域のことが分からず、相談相手もいないまま孤立する人もいるという。
この課題に挑戦するのが、福島県で活動する一般社団法人tentenである。転勤や結婚などの理由で転入した女性が孤立することなく地域とつながり、生き生きと暮らせるよう行政などとも連携して、さまざまな事業を展開している。
仲間づくりや情報交換ができるよう、座談会(tenten cafe)やワークショップなどを県内各地で開催、関心のある分野で活動できるよう、さまざまな情報提供と交流の場を創出する。
例えば、移住・転入者が地域や人とつながるための街歩きツアー「まちとつながる旅」を開催。1人では入りづらい商店街の店舗を巡り、地域で暮らしていく中で、地元の人たちと交流しながら商店街で買い物をするきっかけづくりを行う。商店街でも新規顧客開拓につながるほか、街歩きツアーを通じて、希薄になりがちだった商店街のつながりも再生されているという。
雇用創出にも取り組む。職業紹介業の許認可を取得し、移住・転入者と地域企業を仕事でつなげる「tentenお仕事マッチング」を2024年度から本格始動させた。キャリアや経験を活かし、女性も働きやすい環境の創出に向けて、企業と転入者を取り結ぶ。
このほか、21年9月には、ギフトショップ「ent(エント)」を福島市内にオープン。スタッフが県内各地に足を運び、作り手の思いに共感し、紹介したいと思える商品を取りそろえた。移住・転入者のみならず、地域の人や観光客も訪れ、地域の魅力ある商品に触れることのできる場となっている。
ウェブメディア「tenten fukushima」では、転入女性の目線で福島の暮らしの情報を発信する。また、一目でわかる地域名マップ「tenten map」を作成、大体の地理を把握して土地勘をつかめるよう、日常会話で使われる地域名、主要な道路、河川、ランドマーク、交差点などが掲載されている。
春は異動の季節である。転入者が心地よく暮らすことのできる街は安心だ。たとえその後転出したとしても、関係人口としてつながりを持ちたくなるに違いない。