食事や運動は大切、と分かってはいても、集められる情報は断片的かもしれない。例えば一人のアスリートが、どんな風に身体を作ってきたのか、具体的かつ総合的に読めるのは面白そうだ。『筋肉と脂肪 身体の声をきく』(平松洋子著、新潮社、税込み935円)が発売された。「食」を描き続ける著者の集大成にして新境地。巻末の解説はNHK「みんなで筋肉体操」で指導を務める、順天堂大学スポーツ健康科学部教授の谷本道哉さん。
アスリートの身体づくりは別世界。でも、自分の身体を知り尽くしコントロールする、自分がイメージした通りに動く、自分の身体に何が必要なのかを見極めて、適切な食事とトレーニングで理想の身体を作っていく。そんなことができたら、自分の生活や人生は、随分違ったものになっていたのではないか――。そんな発想から、著者の取材はスタートした。大相撲の力士や親方、プロレスラー、陸上選手、バスケットボール選手などのアスリートたちや、サプリメントや体脂肪計の開発者、公認スポーツ栄養士など、アスリートたちをさまざまな方面から支えるプロフェッショナルたち28人に取材してまとめたルポルタージュが完成した。
テーマは「筋肉」「運動」「食事」。これらは単独で存在するものではなく、互いに影響し合うもの。身体を作るのは、食事とトレーニング。ではそれらは、どんなふうに行うべきなのか。例えば、阪神タイガースのコンディショニングアドバイザーを務める桑原弘樹さんは29歳で白血病を患いながらも奇跡的に生還し、38歳で本格的なトレーニングを始めた。それから20年が経ち、白髪は増え、老眼は進み、歯も抜けたが、筋量だけは増え続けている。桑原さんは「現代社会ではお金は万能に近いのかもしれないけれど、筋肉はけっしてお金では手に入れられない」と指摘する。
身体と向き合ってきた猛者たちの言葉や考え方は、一握りのアスリートたちだけのものではなく、多くの読者にとって、身体とよりよく付き合っていくための参考文献になる。