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「一本足打法」や「振り子打法」の秘密が判明? 静岡大学の研究グループが、球速に対応する脳の仕組みを発表

 王貞治氏の「一本足打法」やイチロー氏の「振り子打法」。プロ野球の歴史に名を刻む強打者たちのように、なぜバッティング動作にあわせて足を使う打者がいるのか。 その謎を解く鍵は、私たちの「脳」の仕組みにあった。

 静岡大学情報学部の宮崎真教授らの研究グループは、「狙い球に合わせて足を動かす」という補足的な動作が、脳が球速の変化に対応する能力を劇的に向上させるという研究結果を発表した。この成果は、2月18日付の国際科学誌『iScience』に掲載されている。

 

脳は「平均」を予測して動いている

私たちは普段、意識せずとも脳内で高度な計算を行っている。例えば野球のバッティングでは、過去に見た投球の速度やタイミングの「平均値」を脳が学習し、それを頼りにして次のスイングのタイミングを計っている。これを専門用語で「事前分布」の学習と呼ぶ。

しかし、投手は内角/外角を投げ分けるし、打者のタイミングを外すために、速球とスローボールを投げ分ける。実は、脳にとって「複数の異なるリズム」を同時に学習し、瞬時に切り替えて対応することは非常に難しいタスクなのだ。

 

実験で判明:足の動きが「脳のスイッチ」になる

研究グループは、18歳から34歳の男女60人を対象に、画面上の刺激に合わせてボタンを押すタイミング課題の実験を行った。

  1. 手だけで操作した場合

「速いリズム」と「遅いリズム」が混ざると、脳が混乱してしまい、どちらにも上手く対応できなかった。

  1. 利き手と反対の手や声を追加した場合

 あるリズムの時だけ、もう片方の手を使ったり声を出したりすると、脳が二つのリズムを区別して学習できるようになった。つまり「事前分布」を効果的に学び分けられるようになった。

  1. 「足の動き」を追加した場合(今回の核心)

 片方のリズムに合わせて「足の動き」を加えたところ、手や声よりもさらに明確に、二つのリズムを正確に学び分けることができた。

 この結果は、足を上げるなどの補足的な動作が、脳内で「今は速い球のタイミングだ」「今は遅い球だ」という情報を整理するための強力な切り替えスイッチとして機能している可能性を示唆している。

 

一本足打法は「脳の混乱」を防ぐ技術?

 この研究成果は、スポーツ界に新たな視点をもたらす。往年の名選手たちが取り入れていた独特のステップや足の動きは、単に力を溜めるためだけでなく、脳が異なる球速(事前分布)を混同しないように整理し、的確なタイミングを導き出すための合理的な戦略だったのかもしれないというのだ。

 

今後の応用が期待される分野

  • スポーツトレーニング: 狙い球(速球か変化球か)に応じて意図的に足の動きを変えることで、打率やミート力の向上が期待できる(例えば、変化球を狙うときは足を少し上げると決めて練習すると、実際に変化球が来た時に球を捉える確率が上がる可能性がある) 。
  • リハビリテーション: 運動機能の回復において、手と足を組み合わせたリズム学習が効果を発揮する可能性がある。
  • 苦手克服のヒント: 運動が苦手な人や、特定の特性(ASDなど)を持つ人への、タイミング制御を助ける新たな指導法の開発につながる可能性がある。

 静岡大学の研究チームは今後、VR(仮想現実)を用いた、より実践的な環境での検証や、実際のプロスポーツ現場での有効性調査を進めていくとしている。

 「なぜあの選手はあんな動きをするのか?」——その答えは、私たちの頭の中に隠されていたようだ。次にプロ野球を観戦する際は、バッターの「足の動き」に注目してみると、脳が必死にタイミングを合わせようとしている姿が見えてくるかもしれない。