
高知県の東部に位置する室戸市。室戸市全域は「室戸ユネスコ世界ジオパーク」に認定され、現在でも大地が盛り上がり続けている地域だ。室戸沖は、急峻な海底地形で、岸から近くの海でも水深が深く、キンメダイなどの豊かな漁場が広がるとともに、海洋深層水の取水地にもなっている。山間部では、斜面で潮風にも耐えて育つウバメガシを原料とする土佐備長炭の生産が盛んだ。
弘法大師・空海が修行をした四国八十八ヶ所の霊場をめぐる四国遍路で室戸市は、高知県の入り口にあたり、「室戸山 明星院 最御崎寺」「宝珠山 真言院 津照寺」「龍頭山 光明院 金剛頂寺」がある。四国遍路は、以前は修行僧が中心だったが、最近では霊場やパワースポットをめぐる観光を目的とした巡礼者(お遍路さん)も増え、国内外から多くの人々が訪れている。
▼満室が続く人気の宿「おうち宿しだお」
室戸に、観光客やお遍路さんに人気の宿がある。歯朶尾己知子(しだお・みちこ)さんが、子供たちが巣立っていった部屋などを活用して始めた「おうち宿しだお」だ。2020年4月から始めた民宿は、全客室4部屋で、歯朶尾さんの人柄と料理が評判で人気が高まり、満室が続き予約が取れない日が多いという。
歯朶尾さんは、家事や子育てが一段落した時期に、改めて室戸のことを知りたいと、ジオパークガイド研修養成講座を受講。当時はジオパークのことを全く知らなかったが、ガイドを始めて室戸の歴史や文化、大地で生きる人々の生活や産業、生態系などを学び、訪れる人々にその魅力を伝えている。また、国の文化財「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された「吉良川の町並み」のガイドも行っている。吉良川の町並みは、土佐備長炭の繁栄とともに建築された、土佐漆喰の建築美と石塀によって形成されている。
室戸の魅力を知り尽くした歯朶尾さんは、「土佐はちきん地鶏の養鶏場見学」や「土佐備長炭の炭窯見学」「羽根川での川遊び」など、周辺スポットへの案内も行っており、県内外から訪れた宿泊客に好評だ。

地元食材をふんだんに使ったお母さんの手料理も宿の魅力の一つ。また、高知県が誇る高品質の地鶏「土佐はちきん地鶏」を土佐備長炭で焼くBBQも楽しむことができる。宿の庭で星空の下、土佐はちきん地鶏をその場でさばき、土佐備長炭でじっくりと焼いたジューシーで弾むような歯ごたえの地鶏は格別だ。土佐はちきん地鶏は、室戸市羽根町で息子の陽太さんが自然豊かな環境で育てている。また、新鮮な有精卵を炊きたてのご飯にかけて食べる「卵かけご飯」も、ぜひ味わってほしい逸品だ。宿泊客は、お母さんの人柄と、新鮮な地元食材を使った家庭的な料理で、心も体も癒やされていく。

土佐はちきん地鶏の炭火焼BBQと、養鶏所や炭窯、川遊びへの案内なども含めて、一泊二日3食つきで大人(中学生以上)が2万円。子ども(小学生以下)は1万円のプランがおススメ。
▼自然豊かな環境で平飼い飼育される「土佐はちきん地鶏」
土佐九斤(とさくきん)と大シャモを掛け合わせた九斤シャモ。その九斤シャモのオスと白色プリマスロックのメスから生まれるのが「土佐はちきん地鶏」。地鶏は「在来種の鶏の血が50%以上入っているもの」「平飼いで75日以上飼育していること」とされており、土佐はちきん地鶏は、美しい水と緑あふれる自然豊かな環境で育てられている。

民宿しだおの三男、陽太さんは室戸市羽根町で土佐はちきん地鶏を養鶏している。小学生のころから生き物が好きで、農業大学に進学。卒業後は県外各地の養鶏場で勤務。その経験を生かして、室戸で土佐はちきん地鶏の養鶏場「歯朶尾鶏産」を始めた。
陽太さんが育てる土佐はちきん地鶏の引き締まった肉は、かめばかむほど口の中でうまみが広がり、臭みも余分な脂肪も少ない。それでいてお肉には肉汁をたっぷり溜め込んでいて、ジューシーなのが特徴だ。シンプルに塩で焼いて食べるのがおススメ。産まれた卵は、県内の専用施設でふ化させて、陽太さんによって育てられていく。また、鶏ふんを養鶏所内の施設で発酵させ、肥料として農家などに提供している。

▼純度が95%以上の土佐備長炭
室戸市の山々の斜面には、ウバメガシの森が広がる。明治の末に、紀州備長炭の生産技術が伝わり、炭焼きの技術と品質が向上。高知独自の大窯や製造方式の改良により、土佐備長炭の生産技術が確立した。
土佐備長炭は、原木を伐採し数日かけて炙ることで乾燥。窯の温度を270度まで上げ、7~8日間かけて炭化を進める。さらに不純物を取り除くために窯に空気を少しずつ入れ、1000度以上の温度にして純度の高い炭を作り上げていく。出来上がった土佐備長炭は硬く、たたくと金属音がする。火持ちが良く、低温から高温まで火力調整しやすいため、多くの料理店で使われている。

室戸市羽根町で土佐備長炭の製造を行う森本生張さんは、東京での会社員生活から1980年に室戸に戻り、農業、酪農、林業などを営んできた。そして、室戸の山々に広がる良質なウバメガシから備長炭を作る製炭業の世界に入る。原木の状態や炭を焼く温度など、良い炭を作るための研究を続け、現在で、後継者育成を目的に研修生も受け入れ、多くの製炭者を輩出。
森本さんは「30年のサイクルでウバメガシを育て続け、土佐備長炭を持続可能な産業として後世に残していきたい」と語る。
▼ゆず香る里、中芸地域
室戸市の隣に位置する中芸地域(奈半利町、田野町、安田町、北川村、馬路村)では、ゆずの収穫時期を迎えている。
かつての中芸地域は林業が盛んで、木材の運搬を目的とした300km以上の森林鉄道が整備され、その規模は西日本最大であった。その後、林業に代わる産業として、ゆず栽培に注力。今では、日本最大の生産量を誇り、国内のみならず海外にも需要が広がっている。

中芸地区では、ゆずが香る時期にさまざまな体験プログラムが実施されている。各地の文化や歴史に触れ、グルメやアクティビティが楽しめるものだ。
安田町の中山地区では、ゆずの収穫と搾りが体験できるプログラムを開催。この地区のゆずは、有機栽培と同様の方法で育てられ、収穫直後に搾った果汁が、フランスなどにも輸出されている。ゆずの木は、種子から自然に生えて成長した木(実生木)と、カラタチなどの苗木にゆずの若い枝をつないで育てた接ぎ木があり、実生木は実を結ぶまでに10年以上かかるという。

ゆずの収穫は、鋭いトゲに注意。ヒジまで隠れる皮の手袋をつけて、実を傷つけないよう慎重に収穫しよう。ゆず畑の色付き具合によって収穫体験の時期が異なるため、事前に確認を。
ゆず収穫体験は、中芸のゆずと森林鉄道日本遺産協議会(TEL:0887-30-1865)まで。料金は「収穫+搾汁体験:3500円(税込み)」「搾汁体験:2500円(税込み)」。
高知県の東部は、ゆずの香りに包まれ、青い清流が流れる山々も紅葉に染まっていく。家族のような地元の人々に囲まれながら、ゆったりとした時間を過ごし、地元の旬の食材を楽しむ旅はいかが? ど親切な皆さんに、また会いたい。









