職場や社会で直面しがちなアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)をテーマにした短編動画を、製薬大手ファイザー(東京都渋谷区)が制作し、YouTubeで公開を始めた。「男ならつらくても我慢すべきだ」「子どもの送迎は女性がやることだ」。こうしたアンコンシャスバイアスは誰もが持っていることに気付いてもらい、コミュニケーションで克服して、働きやすい職場、女性の活躍や成長につながる職場にしよう、という狙いだ。
▼勝手に決め付け
動画のタイトルは「このモヤに名前がつくまで。」。3話構成で、若手男性社員、子育て中の女性社員、マネジャーそれぞれの立場から、職場での小さな違和感がモヤッとした感覚に変化する様子を描いている。例えば女性社員は、夕食の支度は夫が担当しているとマネジャーに言ったところ「いい旦那さんだな。イクメンってやつか」と返され「なんで男性ばかりイクメンって言葉があるんだろう。女性は評価されないの?」
若手男性社員は体調不良を周囲に言えず、隣の席の女性社員が「帰って休みなさい」といたわられているのを見て「男だから弱音は吐けない。俺と彼女を比べるべきではない」と我慢する。モヤの原因となる言動をしていたマネジャーも「イメージやなんとなくで勝手に決め付けているのかもしれない」と反省。それぞれがコンシャスバイアスに気付き「自分自身にも無意識にそうしているのかも」「これからは我慢せずに相談しよう」と、よりよい職場への第一歩を踏み出していく-という内容だ。
社内でジェンダーエクイティ(社会的・文化的性の公平)推進を目指して活動しているグループ「Japan Pfizer’s Women’s Resource Group(JPWR)」のメンバーが、自らの体験も交えて議論しながらシナリオを作った。「いろいろな意味でファイザーのリアルが詰め込まれている」という。
▼マジョリティーの男性から意識改革を
動画は、11月19日の「国際男性デー」を前に、ファイザー東京本社とファイザー・ファーマ(愛知県武豊町)をオンラインで結んで12日に開かれた社内イベント「Men as Allies 2025」で披露された。Men as Allies(MAA)は、マジョリティー(多数派)である男性の立場から職場での女性の活躍や成長を促すことで、ジェンダーエクイティを推進することを目的に、男性社員が2023年から展開している取り組み。
イベントには両会場とオンラインも含め約550人が参加。参加者からは動画について「アンコンシャスバイアスは日常生活のどこでも起きると思った。コミュニケーションをしっかりすること、人と話し合える環境を作ることを実践したい」「アンコンシャスバイアスに気付くことの大切さや、相手だけでなく自分にも気遣って正直に発言することの大切さを感じた」などの感想が出た。

▼会社を成長、社会にもインパクト
動画公開に先立ち東京本社会場で開かれたパネルトークには、五十嵐啓朗社長、井村佐をり製造部門長、西條順営業統括部がん領域担当部長、嶋村尚子法務部門長が出席した。
西條氏は「営業組織全体で女性の比率は20%以下。JPWRやMAAの活動、営業独自のプログラムもあり『心理的安全性が進み、話しやすい環境にある』という社員が多い」と紹介した。一方で、産休・育休明けの女性社員に「お子さんどうしているの? 理解ある旦那さんでいいね」と言ったり、逆に「慎重になりすぎて、夜間の講演会の担当は男性社員を中心に割り当て、女性社員の成長の機会を奪ってしまったり、という話も聞いている」と課題も語った。

五十嵐氏は、Diversity(ダイバーシティー、多様性)、Equity(エクイティー、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)の「DEI」を企業文化の中核に据えているファイザーの姿勢に関連し「DEIは会社を成長させ、社会により大きなインパクトを残していくための企業戦略の非常に重要な部分」と指摘した。アンコンシャスバイアスについては「本来、本人にニーズを聞いて、それぞれのニーズに合わせた形で行動することが重要。気付くことがスタートになり『これってアンコンシャスバイアスじゃないの?』と気軽に言い合える環境になると、気付いていない部分にライトを当てられる」「日本がより元気になっていくためにも、男性側が意識を変え、それを加速することも重要」と強調した。
▼意識に上げコミュニケーション
愛知からオンラインで参加した井村氏は、今春に同業他社からファイザーに移ったばかり。「全員が言いたいことを言える環境作りに、非常に力を入れていることが感じられる。男性がどう変われるかまで話し合っている会社はないと思うので、誇りに思ってほしい」と激励。「多様性は競争力につながる。私は違う意見を本当に聞けたかを非常に重要視している。多様な意見に耳を傾け良いものをどんどん取り入れることがスピード、良い選択につながる」と述べた。

司会を務めた嶋村氏は「当たり前だと思っていることも、実は当たり前でなく積み重なった歴史や価値観の結果だと思う。バイアス自体は誰もが持っていて自然なことなので、無意識を意識に上げる、コミュニケーションをすることが大切になってくる。小さな変化の波が大きな変化につながる。この活動が会社の成長につながるのはもちろん、社会を変えていくと信じている」と締めくくった。











