静岡県牧之原市の片浜地区に廃校を活用したユニークな拠点がある。その名も「カタショー・ワンラボ」(カタショー)。
旧片浜小学校は、児童数の減少により2017年3月に閉校した。だが、地域の思いを受け継ぎ、この施設をまちづくりの拠点として再生させようと、志のある人たちが地元で株式会社マキノハラボを設立、市から校舎を借り受け、カタショー・ワンラボとして翌18年に再出発し、新たな歴史を創(つく)り出している。
3階建ての旧校舎は学校らしさを残しながら、コワーキングスペース、シェアオフィス、会議室、イベントスペースなどへと姿を変えた。
だが、単なる校舎のリノベーションにとどまらない。地域で人々がつながり、「遊び・学び・暮らしが交錯する多機能なみんなの校舎」としてさまざまな工夫が図られている。
その一つが「遊んで泊まれる小学校」である。教室に2段ベッドやカーペットが敷かれ、宿泊施設として活用されている。懐かしい「給食の時間」を再現する食事、黒板への落書き、レクリエーションとしての「試験」、夜の学校肝試し、玉入れ・綱引き・跳び箱などの体育館遊びといった、大人が学校を懐かしみ、楽しむプログラムが用意されている。最大100人の宿泊が可能で、企業研修での利用もあり、年間で6500人が宿泊する。
カタショーは、片浜地区のコミュニティースペースとしても運営されている。部屋の一画が地域サークルや団体に開放され、子育てや高齢者サークル、習い事、カフェや子ども食堂など、多くの住民がカタショーを訪れ、日常的な地域の居場所として利用している。
運営主体のマキノハラボは、地域課題に取り組む各種ビジネスも展開する。持ち前のデジタル技術を生かし、地元のお茶農家と農業のDX※化に向けた「スマート農業実証プロジェクト」に取り組み、農家の作業効率化や収益向上に貢献する。また市内全小中学校でプログラミングや生成AI講座などを教員や児童生徒に実施し、牧之原市の教育DXを強力に後押ししている。
さらにカタショーでは、市内に住む外国ルーツの子どもたちのための日本語初期支援教室「いっぽ」を開設し、公立学校に編入する前に、日本語や日本の生活習慣などを原則6カ月間かけて学ぶ場を提供している。
地域の風土や文化を大切にしながら、デジタル技術や地域デザインを生かし、祭りやイベントを盛り上げる。マキノハラボは、生業(なりわい)の再生や雇用創出を通じて、地域に新しい担い手を呼び込み、産業継承と地域活性化を進めている。
かつては子どもたちの学びやだったカタショーの校舎には、いまや年間で延べ3万人が訪れ、地域の未来を育む拠点として新たな物語を紡いでいる。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.48からの転載】









