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「漁業のために海を守る」 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」

 12月3〜5日の3日間、メキシコ・ユカタン州のメリダで開催されたラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミットに参加し、その熱気と先進性に大いに感銘を受けて帰国した。

 このサミットは、メキシコの水産業界を基盤とするNGO、メキシコ漁業・養殖産品振興評議会(コメペスカ)が定期的に主催する国際会議だ。漁業や養殖業の変革、持続可能な水産業の推進を目的に2019年にスタートしており、5回目を迎えた今回の参加者は17カ国から600余人。ユカタン州知事をはじめ政府機関、研究機関、漁業団体、メディア、金融機関、流通事業者、市民団体、シェフなどさまざまなセクターからの登壇者は、中南米を中心に150人を超え、水産業や水産物の影響が及ぶ社会範囲の幅広さを物語る。

 社会的公正、トレーサビリティー(生産流通履歴)、気候変動への適応をテーマに20を数えたパネルセッションのタイトルは「水産市場におけるデジタル・トレーサビリティーの実践」「持続可能な漁業に対する投資案件候補集」「気候危機とバリューチェーンの脱炭素化」「シェフが語る水産物の新たな可能性」などで、どれも非常に活発な議論が行われていた。

 コメペスカの代表、シトラリ・ゴメス・レペ氏は言う。「私たちは今、漁業という産業システム全体の変革が必要な局面にあり、自ら動き解決策を探していかねばなりません。そのためには協働が不可欠です。また水産物が持続可能であること、それをトレーサビリティーによって証明することも重要です」。

 海や水産業をめぐる国際会議は、国際機関や環境NGO、国際メディアなどさまざまな主催主体のもと各地で頻繁に開催されている。世界の海はつながっており、海の課題は多国間で取り組む必要があること、また各国水産業が抱える課題には共通する内容も多く、知恵の共有が有用であることがその理由だ。

 しかし本サミットのように、持続可能な海を目指す国際会議を水産業界基盤のNGOが主催することは珍しい。今回の参加者も半数が漁業者で「漁業のために海を守る」という彼らの思いがムーブメントを前に進めている。

 メキシコは零細沿岸漁業者が圧倒的多数を占める国であり、実は日本と共通する。日本の海の課題解決を見据え、コメペスカとは今後連携を深め、さまざまなことを学んでいきたいと考えている。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.49からの転載】